Wedge REPORT

2020年3月6日

»著者プロフィール
閉じる

永井隆 ((ながい・たかし))

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒業後、東京タイムズ記者を経て、1992年にジャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆する。著書に『移民解禁 受け入れ成功企業に学ぶ 外国人材活用の鉄則』『EVウォーズ』『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など。

発酵手法で異なる大手のビールとクラフトビール

 ここで少し、大手メーカーのビールとクラフトビールとの違いについて触れておく。

 日本の大手4社をはじめ、世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ・本社はブリュッセル)やオランダのハイネケン、デンマークのカールスバーグなどが生産するビールは、大半が下面発酵ビール。「ラガー」と呼ばれ、発酵を終えた酵母が発酵タンクの下層に沈む。冷蔵設備により10℃以下の低温で、1カ月から1カ月半で醸造される。香りはおとなしい。

 ピルスナーとはラガーの一種であり、チェコが発祥。澄んだ淡色をしてホップの苦味を利かせ、スッキリした味わいが特徴である。バドワイザーやハイネケン、黒ラベル、スーパードライなど、みなピルスナータイプだ。

 これに対し、クラフトビールは上面発酵で醸造される「エール」が多い(もちろんラガーもあるしピルスナーもある)。20℃前後の常温で発酵し、最終的に酵母は泡とともに液面に浮かぶ。ラガーに比べ香りは華やかで、発酵期間は短い。19世紀にラガーが普及する前は、ビールはみなエールだった。

 ペールエールは上面発酵の代表であり、フルーティな味わい。イギリスが発祥のペールエールを18世紀に、植民地だったインドまで遙々と運ぶために開発されたのがIPA(インディアンペールエール)。防腐のためにホップをふんだんに使い苦味が強いのが特徴。もっとも、現在のIPAの原型をつくったのは、ブルックリン・ブルワリーの醸造責任者であるギャレット・オリバーだ。

 このほか、小麦麦芽を使うヴァイツェン、ローストした麦芽のスタウト、チェリーなど果実に漬け込んだフルーツビール、さらに空気中の落下酵母を使う自然発酵ビールなどなど、クラフトビールは多士済々(たしせいせい)。

 同じIPAでも、醸造所によって味わいは異なる。醸造職人が全面に出て、小さな設備で多品種少量につくられる。

 最新設備により、ピルスナータイプの中で少品種大量生産する大手のビールとは違うところだ。

 19世紀後半に3つのイノベーションが相次ぎ、ビール造りは変わる。3つとは、①リンデによる冷凍機の開発②パスツールによる低温殺菌法(パスチャライゼーション)の開発③ハンセンによる酵母の純粋培養技術の開発。

 特に、冷凍機の開発は、冬期に切り出した氷に頼っていた下面発酵を容易にした(ちなみに、リンデのアンモニア式冷凍機を最初に導入したのはミュンヘンのシューパーテン醸造所だった)。同時に、上面発酵よりも“格上”とされていた下面発酵が主流となっていく。

 3つの技術革新は、ビールの品質向上と大量生産、さらに遠隔地への運搬による大量販売とを実現させていった。エールを主体にそれまでは手づくりに近かったビール造りが、大きな資本を必要とする利益追求型の装置産業へと変貌していったのである。

 さて、カリスマ醸造家であるギャレット・オリバーは、どうやってサッポロのソラチエースと出会ったのか。その前に、なぜアメリカでクラフトビールが2000年代半ばから急成長を始めたのか。

後編につづく)

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る