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2020年3月6日

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永井隆 ((ながい・たかし))

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒業後、東京タイムズ記者を経て、1992年にジャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆する。著書に『移民解禁 受け入れ成功企業に学ぶ 外国人材活用の鉄則』『EVウォーズ』『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など。

熱狂的なファンから受けた厳しい批判

 翌16年1月、社長の尾賀による16年の事業方針についての会見が行われた。だが、15年とは異なり「クラフトビール」の言及はなかった。前年の方針を撤回し、「クラフトビールあります」という旗を降ろしてしまう。

 現在は新価値開発部第一価値開発グループマネージャー・SORACHI1984ブリューイングデザイナーという長い肩書きを持つ新井は言う。

「大手メーカーと、クラフトビールとの相性がよくなかったのです」

 国内でもクラフトビールはコアなファンから強い支持を集めていて、10年頃からそれなりのブームとなってはいた。ただし、新井たちは「ブームは深くはなっているものの、幅は出ていない」と見立てた。つまり、一部のファンの熱狂度は上がっているのに、ユーザー数は増えてはいない、と分析したのだ。

 そこで、参入したわけだが、「お客様からの評判は悪かった」と、新井。

「大手がつくるとこんなものか」「中途半端な味だ。ペールエールなどと、名乗るな」。さらには「地域に根ざした小規模醸造所がつくるのがクラフトであり、サッポロのような大手がつくるのはクラフトではない」などなど、特にネットで発せられる意見は手厳しかったのだ。

 そもそも、サッポロのクラフト事業は新規ユーザーの獲得という、”幅”を狙った。このため、エントリー層が入りやすい商品を開発した。

 わかりやすく車に例えるなら、万人受けするよう設計されたカローラをつくった。これに対し、クラフトのユーザーはいまならばスバル車、30年前ならホンダ車に乗っていた。商品に個性を求めるユーザーは、万人受けの商品を好まない。嗜好品としての視点として、ビールであっても車であってもだ。

 そこでサッポロは方針を転換し、「クラフトビール」という名前を外す。代わりに、クラフトビールはもとより、ビールの味の決め手にもなっている「ホップ」を起点とする新価値提案へと戦略を切り替えていく。この一つが、ホップのソラチエースを100%使い19年に発売したビール「イノベーティブブリュワー ソラチ1984」だった。

 この一方、17年にはサンフランシスコの老舗クラフトビール「アンカー・ブリューイング・カンパニー」を8500万ドル(約95億円)で買収。「クラフトビール」の看板を再び掲げて、「アンカースチーム」など同社製品を、20年3月から日本国内での販売を開始している。

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