2022年8月18日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年3月6日

»著者プロフィール
閉じる

樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

中国からの労働者が戻ってこない

 シンガポール政府が中国からのヒトの「移動」を止めたことで、思わぬ不都合も生じている。じつは中国からの3万人といわれる建設労働者が、春節で里帰りしたまま戻れないのだ。そこで地下鉄や道路などのインフラ建設などに支障が生じた。 

 労働力を確保するため、当局の厳格な審査を経て1日当たり200人強の中国人労働者の再入国を認める外、マレーシアやタイからの労働者に短期教育を施したうえで現場に投入する方針を示している。

 昼食休みの頃の住宅街を歩くと、マンション建設現場近くの木陰で憩う労働者を見かける。立ち止まって耳を傾けると、入り乱れた各国語の間から中国語らしいきが聞こえてくる。広東語でも福建語でも、ましてや標準中国語でもない。いままで耳にしたことのない方言だが、おそらく広西チワン族自治区辺りの方言だろう。彼らは春節に里帰りしなかったのか。それとも当局の審査を通って無地再入国が果たせたのか。

 2月28日、ヘン・スイキャット副首相兼財務大臣は新型コロナウイルスと第一線で戦っている医療関係者に給与1か月分の報奨金を送る一方、首相以下閣僚、高級公務員、国会議員の給与を1カ月分減額することを発表した。そういえばシンガポール航空職員も有給休暇返上を明らかにしていた。

 国家的危機にどのように対処すべきか。日本とシンガポールでは国の姿形も成り立ちも、規模も違う。だが国家的危機を前にした振る舞いを比較した時、日本の対応の遅れが気になる。

 「親日」と信じ込んでいたインド、タイも日本人の入国に対し厳しい措置に踏み切った。おそらくトランプ大統領も――かりに大統領選対策上の戦略であったとしても――インドやタイと同じような判断を下す可能性は否定できない。自国の国益と国民の安全を守るためには当然のことだ。

 タイは頭から腐ると言う。だが果して腐り始めるのは頭だけか。「頭から腐る」と批判する「尻尾」や「ひれ」からも腐るとは考えられないか。国内対策のみをヒステリックに議論し合ったところで時間の無駄だろう。安倍外交の常套句である「地球儀を俯瞰」するのではなく、大きく「地球を俯瞰する」視点に立って日本を取り囲む新型コロナウイルス問題に捉え直す時期ではないか――と、シンガポールの街角で考えた。(3月5日記)

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る