2024年12月13日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年7月19日

(cozyta/gettyimages)

 6月以来、身柄を拘束された容疑者の中国本土引き渡しが可能になるという「逃亡犯条例」の改定問題を巡って、香港の混乱は止みそうにない。

 総人口の4人に1人に近い200余万人が街頭で反対の声を上げるなど香港史上空前の盛り上がりをみせる中、1997年7月1日の返還(中国では「香港の中国回帰」とする)から22回目を迎えた記念の日を狙ったかのように、反対派は議会(立法会)の建物に突入し議場を占拠・破壊する一方、警察部隊と激しい市街戦を展開した。例年の祝賀とは違う大混乱こそ、返還から22年目の香港が抱えた現実であり、習近平政権にとっては“不都合な真実”だろう。

 反対デモは香港島からヴィクトリア港を越えて対岸の九龍へ。反中ムードを高めながら新界の沙田へと、一歩一歩と中国本土に向かって進んでいる模様だ。この勢いが香港と接する経済特区の深圳、さらには東莞に飛び火するだろうか。

 香港の若者の70%以上は自らを中国人ではなく香港人と見なしている。彼らに中国への帰属意識はない。素朴な感情に発した「逃亡犯条例」反対の声は、いまや過激な反中運動へと変質しつつある――メディア的には“絵になる情報”が次々と伝わって来る。

 その一方で、香港市民からの“予想外の猛反撃”がキッカケで英米両国などからの批判も受け、習近平一強体制がグラリと揺らいだといった観測も流れる。来年に控えた台湾総統選挙の行方とも重なって、当分の間、香港は民主化と「一国両制」を軸に国際政治の焦点であり続けることだろう。

 我がメディアには、“絵になる情報”を全面にした高揚感溢れる報道が見られるばかりか、共産党政権の強圧的政治に対する香港住民の激しい怒りが、いずれ民主化を勝ち取るであろうなどといった楽観に過ぎる観測も流れる。

 だが街頭や議会建物内外での激しい実力行動は小状況を示すものであったにせよ、それを自らの希望的観測に投影させ大状況=全体像に敷衍させ将来を即断することは軽々に過ぎる。たとえば1986年の「ピープル・パワー革命」によって長期独裁政権を倒したはずのフィリピンでは、民主的手続きである選挙を何回か経た後の現在、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領による強権政治が行われている。また2012年のチュニジアにおける「ジャスミン革命」から始まった「アラブの春」にしても、現在のイスラム世界の混乱は当初の理想や希望的観測を大きく裏切ってしまった。

 ピープル・パワー革命、あるいはジャスミン革命やアラブの春のみならず、天安門事件ですら、発生当時の熱気に煽られたままの希望的観測と事態鎮静化後の状況を比較した時、その落差に驚かされるばかりだ。やはり両者が直線的に結びつく可能性は限りなく低いと言わざるを得ない。であればこそ“現場の熱気”から少しく距離を置いて、全体状況を俯瞰しつつ捉え直してみる必要があるはずだ。

 そこで香港である。

 いま香港を構成している主な要素を挙げるなら、経済(=企業家)、政治(=中央政府)、民意(=香港住民)になるだろう。この3者のうちのどの1つが欠けたとしても、中華人民共和国特別行政区となった香港の持つ世界の金融センターとしての機能が失われることになる。結論を先に言うなら、この3者の利害が必ずしも一致するわけではないところに香港が抱える根本的矛盾あるわけだ。


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