Wedge REPORT

2020年3月12日

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馬場未織 (ばば・みおり)

二拠点居住ライター

日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターに。2007年から平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山の二地域で居住する。田舎暮らしなどをテーマに執筆活動を展開。南房総の里山と都市に暮らす人をつなぐNPO法人南房総リパブリックの理事長も務める。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

暮らしに関わる「なぜ?」の積み重ねで知識のパズルができあがる

 山砂の採掘にせよ、残土処理の問題にせよ、途中で思考停止せずに考え続けていくと、実はすっきりした正解など存在しないことに気づく。

 例えば、「残土埋立反対!」というところで終わらせず、「工事現場がある限り必ず出てしまう残土を、誰も引き取りたくない時どうすればいいのか?」という疑問へと発展させると、環境問題から社会問題、政治問題など多面的に広がっていく。ぺらっとした知識にとどまらず深く問う力が生まれるのは、それが自分の暮らしに関わる“自分事”だからだ。

 さらに二拠点生活では、ひとつの物事に対して複数の立場から“自分事”を体験することになる。ひとところにいると、物事をその場所からの視点でしか見られなくなることも多いが、物理的に異なる場所から同じ物事を見ると、裏側にある真実に触れたり、いくつかの異なる事象の因果関係が見えてきたり、揺るぎないと思っていた善悪の判断がぐらつくことさえ起きる。すると、脳味噌の中で1人ディベートが始まるのだ。そんなことが度重なれば、ワンサイドな考えにとどまる方が難しくなり、常に物事を立体的に見ようとする癖がついてくる。多様な立場で見聞きし、体験して得た知識は、世界をより客観的に把握しようとしたときに初めて生き生きと生かされていく。

 ネットで調べればすぐ分かることもたくさんあるが、ネット情報は「1つの問い」に対して「1つの答え」が与えられる単相の学びが多い。言ってみればそれは、ばらばらと存在するパズルのピースのようなものだ。

 楽しいのは、知識のピースをざらざらと集めることではなく、それらが組み合ってできるパズルの全体像が見えてくるプロセスである。ぱちん、ぱちんとはまっていく時のたとえようのない気持ちよさは、実際に手を動かしてやってみなければ分からない。より大きな絵が見えるから、知識を得ることをおろそかにしなくなる。さらに、パズルのフレームの“外”に広がっているはずの世界も見たくなる。

 本来、学びとは、順位を競うための手段ではない。家族として受験を経験したばかりの今だからこそ、その原点をむしろ強く意識する。

 世界がより広く詳細に見えるようになることは、暮らしを豊かにすることそのもののはずだ。その実感を得る機会をより多く持つことができれば、知らないことを恥ずかしがる自意識や、他人の無知をあざ笑ったりすることの罪深さを相対視できるようになるかもしれない。

 ネット時代のセカンドステップは、「なぜ?」を恐れず発して深めていく世界の構築だと言ってもいい。

  
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