問題集をコピーしてオリジナルの教材を作るお父さん
中学受験といえば、これまではお母さんと子どもの二人三脚というイメージがありましたが、近年、中学受験に熱心なお父さんが増えています。子どもの受験を応援したいという姿勢は大変よいことだと思いますが、ときにやり方を間違えて、子どもの足を引っ張ってしまうお父さんがいます。
タクヤくんの家を訪ねたときのことです。タクヤくんは5年生の夏から指導をしていますが、日に日に元気がなくなっていることが気になりました。聞くと、「やっても、やっても終わらない」とぐったりとした表情を見せます。
タクヤくんのお父さんは、地方の県立トップ校から都内の難関大学へ進学し、一流企業に勤めています。タクヤくんが4年生の頃は、中学受験についてはお母さんに任せていましたが、5年生になって成績が下がってきたのをきっかけに、タクヤくんの受験に関わるようになりました。「自分は中学受験を経験していないから、これまでは塾に任せていたけれど、塾に通っていても成績が一向に伸びないのは、本人の努力が足りないからだ」と思い込み、そこから熱心にタクヤくんの勉強を見るようになります。市販の問題集を買い集めてはコピーを取り、その単元のオリジナル教材を作り、タクヤくんにやらせます。
しかし、塾から課される大量の宿題に加えてお父さんオリジナルの教材をやるというのは、明らかにやらせすぎです。しかし、お父さんは「やれ!」の一点張り。きちんとやったかどうかのTo Doチェックも厳しく、タクヤくんは「やらざるを得ない」状況です。そこでお母さんが「こんなにたくさんやるのは無理よ」と跳ね返してくれればいいのですが、亭主関白のご主人には逆らえません。逃げ場をなくしたタクヤくんは、なんとか終わらせるように頑張るけれど、できないことの方が多い。すると、お父さんに激しく叱られます。
従順な子どもを潰す
「くり返しやればできるようになる」の呪縛
「こんなにたくさんできるわけがないじゃないか!」
そうやって、反抗できればどんなにラクでしょう。しかし、小学生の子どもは、まだ親の言うことを聞きます。特に父親が厳しい家庭の子は、従順です。
できないと、お父さんに叱られる。できないのに、量を減らしてくれるわけでもない。そうやって、苦しい状態が続き、やがて精気を失ってしまうのです。
では、なぜお父さんはそこまで勉強をさせるのでしょうか?
それは、「頑張れば結果が出る」という、お父さん自身の成功体験から抜け出せないからです。
タクヤくんのお父さんは、地方の県立トップ校に入るために、必死に勉強をしました。その後も、都内の難関大学に入るために、必死に勉強をしました。その努力が「合格」に結びついたのかもしれません。しかし、それは中学3年生や高校3年生のときのことであり、11歳のときの話ではありません。タクヤくんのお父さんに限らず、「努力をすれば結果が出る」と思っているお父さんは少なくありませんが、多くの場合、それは大学受験のときの経験を語っているのです。