2024年11月22日(金)

【中学受験】成功を導く父親の役割

2020年2月28日

 大学受験であれば、将来を意識して、「○○になりたいから、○○大学の○○学部に入りたい」と目標を明確に持つことができます。でも、中学受験は子ども自身が決めることはほとんどなく、多くは親が望む学校へ入れたいと思って受験をさせます。また、精神的に大人に近づいている高校生であれば、「今日は絶対にここまで終わらせるぞ!」と、強い意志を持って計画を進めていくことができますが、小学生にそれを求めるのは酷です。なぜなら、子どもは「明日の100円よりも、今の10円」に惹かれるからです。そして、「ちょっと頑張ればなんとかなりそう!」と感じられる事柄だけは努力できる、そんな年齢だからです。

 長年、家庭教師をやってきて感じることは、受験で成功体験がある人ほど、親になると、自分と同じやり方を通そうすることです。高学歴のお母さんにもその傾向はありますが、お母さんはお子さんと一緒にいる時間が長いので、肌感覚で「子どもは感情で動くもの」ということが分かっています。ですから、もっと頑張ってほしいという気持ちはあっても、「これ以上はあの子には無理だわ」とお子さんの状況が判断できます。ところが、普段家にいないお父さんにはそれができません。平日の夜か土日しか顔を合わせていないという場合、子どもの感情の動きをつかめていないことが多いのです。

 小学生の子どもの持続できる集中力は、せいぜい1〜2時間。のべ時間でも1日3時間ぐらいが限界です。勉強時間が多ければ、学力が上がるというわけではありません。また、その日、学校で友達とケンカをした、お母さんに怒られたなどのちょっとしたことで、気分が乗らないこともあります。こうした状態を無視して、「くり返しやればできるようになる」と叩き込んでも、効果は望めません。むしろ、「勉強はつらいものだ」という感情が膨らんでいくばかりでしょう。

苦手意識の刷り込みは百害あって一利なし

 御三家を目指すトモヒロくんの指導についたのは、6年生の春。トモヒロくんは、難関校を目指すだけあって比較的勉強ができる子でしたが、算数の『速さ』だけがどうしても苦手でした。塾の先生からも「トモヒロくんは、『速さ』が苦手だからなぁ~」とよく言われていたようです。そこで、家庭教師の私にお声がかかったわけです。

 トモヒロくんのお父さんも大学受験で成功体験を持つエリートでした。タクヤくんのお父さんほど、あれもこれもやらせたり、子どもの行動を縛りつけたりすることはありませんでしたが、自身の経験から「苦手なものでも、何度もくり返しやればできるようになる」という考えを持っていて、『速さ』の問題ばかりをやらせようとしていました。

 しかし、「お前は『速さ』ができないからなぁ~」とお父さんがくり返し言い続けることで、トモヒロくんはますます問題が解けなくなっていきました。トモヒロくんは御三家を目指すレベルの学力は持っているので、『速さ』の概念は理解できているのです。でも、お父さんからの『お前は「速さ」ができない』と苦手意識を刷り込まれたことで、『速さ』の問題を解くときになると、『どうせ自分は解けないんだ……』と思い込み、思考が止まってしまうのです。

 これは良くない状態だと思い、私はお父さんに苦手意識を持たせてしまうような言葉をかけないようにお願いしました。しかし、お父さんにはなかなか響きません。苦手なものはたくさん解けばできるようになると信じて、『速さ』の問題ばかり解かせようとします。

 転機は入試直前期に訪れました。これまでお父さんの言うことを聞いていたトモヒロくんが、突然、これまで内に秘めていた気持ちを吐き出し大泣きしたのです。その姿を見たお父さんは、ようやくトモヒロくんの気持ちに気づきました。

 その後のトモヒロくんは、気持ちが吹っ切れたかのようでした。「全部完璧にできなくてもいいから、ここまではやっておこうね」とレベルを設定し、できるところまでやって本番に臨んだところ、第一志望校に見事合格。入試に出た『速さ』の問題は完全な正解にはならなかったけれど、途中式で点数は取れていました。

 御三家のような難関校の入試で、満点を取れる子はいません。誰もが、苦手を残したまま本番に臨みます。すべてを完璧にしなければと、トモヒロくんのお父さんは苦手分野の克服に躍起になってしまったけれど、精神的にまだ幼い小学生の子どもは、苦手を克服するために頑張るのはつらいことなのです。

 子どもは自分が得意なものや好きなことに対しては、頑張ることができますが、苦手なことをやり続けることはできません。もちろん、合格するためには苦手なものもできるようになることが理想ですが、「お前はこれが苦手だから、もっと解け!」ではやる気は起きません。はじめは簡単な問題からやらせて、できたら誉めて、少しずつハードルを上げていくなど、大人の工夫が必要なのです。


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