2022年8月10日(水)

WEDGE REPORT

2020年3月18日

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花井亨 (はない・とおる)

写真家

1973年東京都東大和市生まれ。1996年日本大学芸術学部写真学科卒業後、東京スポーツ新聞社写真部入社。サッカーセリエA(中田英寿、中村俊輔など)、大リーグ(イチロー、新庄剛志など)ゴルフ(マスターズ、全米オープン、全米プロ他)などを取材。2005年ロイター通信写真部入社。
◆サッカーFIFAワールドカップ 2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシア
◆オリンピック 2012年ロンドン、2016年リオ・デ・ジャネイロ
2019年2月よりフリーランス。
HP: https://www.toruhanai.com/
Twitter: https://twitter.com/toruhanai
​Instagram: www.instagram.com/toruhanai/

 

途方もなく長い、追加1週間

 隔離4日目、18時過ぎ、建物の前には3台の車が横付けされていた。私はSUVに案内された。ようやく効き出したSUVのエアコンの風に実に5日ぶりに肌がサラサラになるのを感じた。車は1時間ほどほぼ交通麻痺のメインストリートを走り、「ホテル」に着いた。その場所はホテルとは名ばかりで、元ホテルの廃墟を無理やりの突貫工事で収容施設に仕立てた場所だった。それでも部屋には夢にまで見たエアコンが付いていた。吹き出すのはカビ臭くて乾いた風。トイレもシャワーの水も流れないが、蚊がいないだけマシだ。

「ホテル」(左)と外壁の間には鉄条網があり、荒れ放題だった
「ホテル」の割れた窓ガラスから外を覗くと、そこは賑やかな市内のメインストリートだった
「ホテル」の裏庭では女性従業員たちが洗濯板で洗濯をして、調理用の大鍋を洗っていた。
洗濯板で洗った洗濯物をメルセデス・ベンツに干す。奇妙な光景だ

  隔離5日目、5日ぶりのクーラーでよく寝れたが、出された朝食はやはり、タロイモとバナナ蒸しであった。

 夕刻、 在ガーナ日本国大使館より電話。姫野大使の働きかけの結果、なんと当初のスケジュールどおり3/1日曜日にリベリアを出国できるとのこと。14日間の検疫を半分の1週間に免除してくれるというのだ、嬉しい! 日本、なんて素晴らしい国なんだ! 日本人に生まれてよかった~!

【筆者注】2019 年2月、リベリア政府は、日本のODA(政府開発援助)で復旧工事 を行っている首都モンロビア市内の道路を日本へ の感謝を込めて「ジャパン・フリーウェイ」に 改称。と両国の繋がりは深い。

 

 隔離6日目、帰国に備えて荷造りをしていると、ブランド物のサングラス、金時計、手にスマホとシステム手帳を持った身なりのいい男が訪ねてきた。「保健副大臣」と名乗るその男はこう詫びた。近隣の大国ナイジェリアで、イタリアからの渡航者から陽性反応が出たので出国は白紙になった、と――。

 あと少しで出国できたのに、このタイミングでのもう1週間は途方もなく長い。

 隔離9日目、明らかに体調がおかしかった。前日、運よく水が出るタイミングに、5日ぶりにシャワーを浴びた。そのまま寝て寝冷えをしたか? それとも疲労か。夜の検温で37.7℃が出てしまった。その後、1時間毎の検温でも、全て37℃台。その後、体温は38.1℃まで上がり、まさか? と最悪の事態が頭をよぎった。薬を飲み身体中にタオルを巻き付け、一晩中寝汗をかいた。

厳重に鍵の掛かった門から外の世界を見る。カメラを持っているところはなるべく見られないようにした

 翌朝もいつも通り6:30ごろに検温が来た。体温は35.9℃だった。保健省看護師も笑顔で喜んでくれた。やっぱりただの寝冷えだった。検温を終えた後ドアを閉め、一人になった部屋で子供のように喜んだ。実は自分でも心配だった。

 隔離11日目、昼食後、少し施設内の探検に出た。ホテル裏ではオーナー所有のメルセデスがタイヤパンクのため放置され洗濯物干しに、この国の貧富の格差をまさに示すシーンだ。外壁には穴が空いており外の様子が見える。隣はサッカー場になっており、子供達が走り回っていた。

外壁の穴からは隣のサッカー場が見えた。未来のジョージ・ウエアを夢見る子供達がボールを追いかけていた

 【筆者注】サッカーといえばこの国のジョージ・ウェア大統領は,ACミラン等で活躍したサッカーの元スーパースター。1995 年にア フリカ人初となるバロンドール(欧州年間最優秀 選手)と FIFA(国際サッカー連盟)年間最優秀選手賞をダブル受賞した。

 8日前、突然現れた保健副大臣により、帰国が延長され、途方に暮れた。しかし、あの時副大臣は何度も「私たちの苦い経験から」という言葉を繰り返した。そうエボラ出血熱のパンデミックだ。あの時日本にいた私とすれば、遠い国の話だったかもしれない。しかしこの苦い経験をした、この国にとっては新型コロナウイルスは遠い話ではないのだ。

 私が受けたリベリアの入国規制や強制検疫は、タイミング的に言えば日本で春節前に中国からの入国を制限するような早いタイミングだったかもしれない。早いタイミングだったからこそ、私は驚き困惑した。しかしながら、この国から見ればその早いタイミングこそが、国を救い国民の安全を守る、高い意識に他ならない。

 日本はこのタイミングを悲しいくらい何度も逸した。そのため国民は動揺し、買い物騒動や子供達その親達の生活も混乱を極めている。しかしながら、この初動の大失敗を高度な医療態勢で死者の数を抑え、別な注目を集めている。ところがこのリベリアにそんな医療態勢あるだろうか。

 しかしながらリベリアには苦い経験とそれによる、高い意識がある。そう思うと私をこの14日間苦難のどん底に叩きつけた、この国の政策は立派であると讃えられるべきであり、私に帰国延期を告げた保健省副大臣や私の周りにいた職員・スタッフはこの国のヒーローなのかも知れない。

施設内のいたるとこにトカゲがいた。カワイイ顔しているが、日本にいるものより、ひと周りかふた周り大きい

  
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