世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月23日

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 先週の本コラムで、武漢発新型コロナウィルスへの対応としての金融政策には、限界があることを述べた(金融緩和はコロナショックの妙薬になるのか)。実際、米国連銀(Fed)の利下げにもかかわらず、株価は下落している。そうなると、次は、財政の本格的な出番になる。実際、既に、日本を始め、欧州諸国、韓国等でも、新型コロナウィルス(COVID-19)対策として、医療関係の措置、経済的損失への補填等、様々な財政措置が取られている。

Ca-ssis/iStock / Getty Images Plus

 事実、米国でも矢継ぎ早に幾つかの案が打ち出されている。例えば、中低所得者への1年限定の時限的減税をトランプ大統領が議会に要請した。また、今回のCOVID-19で被害を受けている運輸や観光などの産業部門に対する企業減税をクドローNEC委員長が提案した。民主党議員や経済政策研究所(EPI)からは、有給休暇制度の拡充が出された。が、これで人々は安心できるだろうか。

 ニューヨーク・タイムズ紙で経済を担当するニール・アーウィン上席記者は、3月3日付の同紙にて、裁量的な財政政策には欠点があると言う。至極尤もな議論である。周知のように裁量的な財政政策は、(a)足元の景気判断には時間がかかる(認知ラグ)、(b)必要な財政対応を決めるまでに時間がかかる(決定のラグ)という欠点がある。米国の場合はこのラグが次の理由で日本に比べて長いように思われる。第1は、米国では日本のように経済対策と補正予算編成が恒例化していない。トランプ米大統領は、3月6日に83億ドルの緊急予算を盛り込んだ法案に署名し、同法は成立したが、この法案は公衆衛生上の新型コロナウイルスの対策費であって経済対策ではない。第2は、アーウィンも指摘するように、仮に経済実体が悪くなってもトランプ政権はそれを他人(Fed)の責任にして、財政出動には後ろ向きになる。選挙の前はなおさらである。第3は、いうまでもなく政治の世界における党派的分断である。加えて、D.ホルツ=イーキンCBO元局長が指摘しているように、今回のショックは時間的には短期的で終わるかもしれないが、ショックによる経済的な負の影響は感染症の流行如何では大きくなる可能性が高い。そうした不確実なショックに対して裁量的財政政策は適していないというわけである。

 以上のように、裁量的財政政策には認識と決定のラグが長いという欠点があるとしたら、この欠点から比較的免れている財政の自動安定化装置の方が望ましいという議論が当然成立しよう。そしてこうした装置を財政制度に組み込んでおくことは、現在の政権与党はいうまでもなく、将来の政権与党になりうる現在の政権野党にもメリットはあるはずである。既に多くの提言が出されている。ここでは例えば、既存の失業保険制度を次の2点で充実するという案を紹介しておこう。第1の柱は、失業率が一定の水準を超えたらこの装置を発動し(トリガーの要件としては連邦ベースの基準に加えて産業別基準や地域別基準も加味すればより現実的になるだろう)、州ベースの失業給付に連邦政府からの一定割合の給付を付加する。例えば、ミシガン州の失業手当(週当たり)は2019年では362ドルであるが、連邦政府からの補助率を6割と仮定すると総額で579ドルになる。そして、第2の柱は失業手当支給要件の中に「労働時間の減少」という要件を加えることである。この第2の柱のトリガー要件は、学校が休暇に入ったとの証明書があればよいとの簡単な要件にすることが重要である。これは何らかの事情(例えば、ウイルス等)によって学校が封鎖され、保護者の就労時間が削減された場合にはそれを自動的に補填するという装置である。

 いずれにしても、今回のCOVID-19のようなショックは、タイミングを含めて適切な対応を誤れば、経済への影響は“V”字型ではなく“L”字型になりかねない。

  
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