2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月16日

 2月末からNYダウでも大幅下落が始まった。その引金は、新型コロナウイルス(COVID-19)は太平洋の向こうの他人事であると思われていた米国で、2月21日金曜日に発表されたサービス業PMIが予想に反して大きく下落したことにあった。2 月のサービス業PMIは前月比4ポイント低下の49.4と、2013年10月以来の低さであった。主たる原因は、スターバックス等の中国での米国小売店の閉鎖と航空会社の運航停止によるものである。

Ca-ssis/iStock / Getty Images Plus

 そして、こうしたリスクオフの中で、米国長期金利はとうとう1.1%台に突入した。今後、米国経済、そして世界経済はどう進んでいくのだろうか。現時点では不明な点が多く、確定的なことは何も言えないが、現在までの世界各国への COVID-19の伝播状況を念頭におくと、2003年のSARSショック時よりは大きな打撃になるというのが現時点での多くの見方のようだ。

 特に驚いたニュースは、2月29日に発表された中国の2月の製造業PMIがリーマンショック直後の35.7を下回ったことである。今後はこうしたリーマンショック並みの中国発のショックは様々な経路を通じて米国経済を含む他国に波及することは必至である。既に市場は3月のFedの利下げを織り込んでいる。また、協調緩和の期待も一挙に高まっている。そこで当面の話題は米国Fedはどの程度の利下げを行うかである。

 そこで次の論点は、この段階での金融緩和は、リーマンショック直後と同じように大きな効果があるかどうかである。この点については、金融緩和によって「病気の治癒」は可能と見る向きもあるが、評者はせいぜい「痛みの緩和」に限定されるのではないかと見ている。ここでは米国経済を念頭において、2点指摘しておこう。

 第1は利下げの幅である。リーマンショック直後は5%程度の利下げ余地があった。しかし、今回は、昨年における3回の利下げで糊代の半分は既に使ってしまったのである。現在のFFレートは既に1.5%程度であり、今後の利下げ余地は少ないのである。

 第2はショックの源泉と処方箋がマッチしていないことである。まず、需要面についてみると、例えば、リーマンショック時の米国の需要低下の主因は、国内金融システムの崩壊によって消費者ローンが大幅に削減され、これによって個人消費が大きく抑制されたことにあった。それ故に、金融緩和政策は有効であった。要するに金融ショックに金融面の政策が対応していたのである。ところが今回は中国発ショックによる米国の消費マインドの悪化や輸出の減少である。特にこれまで米国経済を牽引してきた消費へのショックは大きくなる可能性を否定できない。そしてこうしたショックは非金融的かつ外生的である。このショックを金融という利下げで相殺するには限界があると言わざるをえないのである。

 更には、今回のCOVID-19ショックは、供給面からのショックを伴っていることである。そうした供給ショックに対して金融緩和政策は無力とは言わないが、効果が小さくなることは経済学のイロハである。例えば、中国から部品が入手できなければ米国での自動車組立企業は金利が低くなっても操業率を高めることはできない。また、部品輸入先を直ぐにベトナムに切り替えることもできない。

 更にいうと、政府投資などの財政面からのテコ入れも、供給面からの制約によってプロジェクトの迅速な実施ができないということもありうる。

 最後になるが、デカップリングと反グローバル化という最近の流れに抗するためには、まず何をやればいいのか。先ずは、目下の COVID-19の伝播を封じ込めであることは言うまでもないが、同時に、世界のサプライチェーンの崩壊に繋がりかねないこの2年間の保護貿易政策を取りやめ、2年前の状態に復帰することが必須であるということであろう。

  
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