世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月9日

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 2月21日付のForeign Policy誌で、 同誌共同エディターのオードリー・ウィルソンが、カンボジアのフン・セン首相は、クルーズ船「ウエステルダム」の寄港を認めることによって中国に媚びを売る一方、自国民をコロナウイルスの危険に晒している、という批判的な論説を書いている。

Pool / プール/Getty Images News

 ただ、この論説には欠落していることがある。それは、2月1日に香港を出港したが、グアム、台湾、タイ、フィリピン、日本で入港を断られ、海を彷徨っていた「ウエステルダム」号にフン・センが救いの手を差し伸べ、2月13日にシアヌークビルへの入港が認められたという事実に対する評価である。フン・センの行動は、中国に媚びを売り、国際社会におけるイメージの改善を図るという政治的計算と、新コロナウイルスの感染拡大のリスクに対する無知によるものだというのがこの論説の論旨であるが、たとえ、それが事実だとしても、そういう観点からだけの観察は公平ではないであろう。乗客(多くは米国と欧州国籍)は兎も角下船出来た。カンボジア駐在の米国大使はカンボジアに感謝すると言い、トランプ大統領は珍しく「有難う」とツイートした。日本はこの地域随一の医療先進国であるが、「ダイヤモンド・プリンセス」号に加えてこの船を受け入れることは無理だったのであろう。その態勢がなかったことは残念である。

 フン・センはカンボジアで発生している本当の病気は恐怖という名の病気であり、武漢で発生した新コロナウイルスではないと述べた。武漢からシアヌークビル(カジノがある)に来た中国人の感染が確認されても、彼は中国からのフライトを止めなかった。武漢で立ち往生の23人のカンボジア学生を救出しようとはしなかった。何故なら彼等は中国国民と共に病気と闘う必要があるからだと彼は述べた。2月4日には彼は武漢に彼等を訪問すると表明したらしいが、さすがに中国当局の反対で取り止めとなり、代わりに彼は北京を訪問して習近平と会談した。習近平は両国の真実で全天候型の友好を讃えたという。

 中国は諸外国からの批判を恐怖しているのかも知れない。2月4日付 ウォールストリート・ジャーナル紙に掲載されたウォルター・ラッセル・ミードの「China Isthe Real Sick Man of Asia」という論説を理由に、同紙の3名の北京駐在特派員を追放したところを見ると、強迫観念に憑りつかれているのかも知れない。

 2月20日にはラオスの首都ビエンチャンで、中国とASEAN との特別外相会議が開催された。中国外務省のウェブサイトを見ると、「(ASEAN の外相は)伝染病と闘う中国の断固たる措置を称賛した」、「地域的およびグローバルな公衆衛生に対する中国の貢献を完全に認識し、ASEANの外相は中国が近く集団発生を克服するであろうとの確信を表明した」などとある。何もASEAN にこういうことを言わせる必要はないと思う。中国が好ましい反応を期待するのであれば、やるべきことは別にある。中国を震源地とする問題が全世界的に拡散した現状を踏まえ、中国としての問題の認識と見通し、中国が取りつつある措置の全貌、および諸外国と国際機関に対する協力の要請を取りまとめた習近平あるいは李克強のステートメントを出すことが考えられて良い。この種のものが何もないのは如何にも奇異である。

  
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