新型コロナウイルスによる新型肺炎は、南極大陸以外全ての大陸に上陸し、感染拡大は止まらない状況だ。前回、香港の新型肺炎対策に関する記事「人権より2次感染防止を優先、香港の新型コロナ対策」を書いたが、香港以上に、そして台湾をも超えるくらい新型肺炎拡大防止に成功しているのがマカオだ。経済的には自殺行為といえるような感染防止対策を自ら行った結果、感染拡大のリスクが最も低い都市の1つとなった。
マカオと言えばカジノだ。マカオが2006年にラスベガスを抜いて売上トップになり、19年の売上は2925億パタカ(約3兆9500億円)に上る。マカオ政府の歳入の80%はカジノからの税収で、マカオ訪問者の約9割が中国本土からの観光客だ(19年のマカオへの観光客数は約3600万人)。日本の観光業も中国人観光客に依存しているが、その比ではない。
次々と展開されるマカオの感染拡大防止対策
時系列でみると、旧正月(20年は1月25日から)前の1月22日から、中国から来る全ての到着便の乗客に検温と健康診断書の提出を求めた。しかし同日、武漢から19日にマカオに来ていた女性が発症し、マカオ初の感染例となった。すぐにマカオ政府はカジノ施設のゲーミングフロアで働くスタッフに対し、勤務中のマスク着用を命じる政令を発令した。
翌23日に、
1月27日になると、マカオ北部にある税関の営業終了時間を午前1時から22時にを3時間短縮させ、過去14日以内にマカオ市民を除く湖北省滞在歴のある人がマカオへ入境する際、合法的な医療機関が発行した医師による証明書の提出を義務付け、カジノへの入場を禁止した。
さらに、すでにマカオにいる湖北省の人間を追跡し、探し出した時、
1月30日には学校が無期限の臨時休校とし、2月1日に政府は、カジノ運営会社はフロアに入場する客にマスク着用させるように指導。拒否した場合は退場させる権限も与えた。2日に8人目の感染例が初のマカオ人であると発表された。3日にはバスと軽鉄道(
ここでマカオ政府は2月5日から15日間、41ある全カジノの営業中止を決定。映画館、インターネットカフェ、ナイトクラブ、美容院といった人が集まる施設も含まれた。それに伴い、カジノ側には勤務できなくなったスタッフの賃金保証を確約させた。政府の業務も緊急性のあるもの以外に限定するとした。
米中貿易摩擦による景気減速で中国人観光客が減り、お隣の香港人は何十年とカジノを利用してくれた常連客だが、逃亡犯条例改正案に端を発したデモの影響で足が遠のいた。そこに新型肺炎の発生というトリプルパンチの状況下で、カジノ閉鎖は「経済的自殺行為」に近かった。
19年12月20日に就任したばかりの賀一誠・行政長官はマスクを着用しながら記者会見を行った。記者からの質問がほとんどなくなるまで対応したため会見時間は約90分に及んだが、覚悟を決めた表情をしていた。
これらの対応の結果はどうなったのか? カジノを閉鎖した15日間の新規感染者はゼロでカジノが再開可能となった(即オープンしたのは41施設のうち29)。再開しても閉鎖前に実施していた検温などの対策は継続するほか、ギャンブルの種類よっては1テーブルに最大で3、4人までの参加人数制限をし、スロットマシンは客同士の距離を保つため2台置きに稼働させる。
中国からの観光客に対しては、湖北省については1月27日に定めた方針を堅持。北京市や広東省などのハイリスクに指定されたところに14日以内に滞在していた人は、新設された「検査ステーション」で数時間にもおよぶ医学検査を受けるよう義務化された。
また、韓国、イラン、イタリアからの観光客に対しては14日間の強制隔離を経てからマカオに入れるようにするなど、厳しい措置をとり続け、感染拡大防止に万全の対策を施す。また、映画館などのレジャー施設は3月2日より再開となった。政府公共部門も同じく全面再開となった。