2024年4月26日(金)

脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本

2020年3月26日

 EUの輸入額で最大の相手国は中国、次いで米国。輸出額は、米国、中国の順だ。ダボス会議に出席したフォンデアライエン委員長は、中国を念頭に「炭素に価格を付けるか、税に直面するかのどちらかだ」と発言している。ロス米商務長官は「保護主義的な内容であれば、米国は課徴金で対抗する」と述べ、ムニューシン米財務長官も「炭素量をどのように計算するのだろうか。一生懸命働いている人に対する課税ではないか」と牽制している。

環境政策の名のもとに 
産業を振興してきた歴史

 これまでもEUでは、環境政策の名のもと、産業を保護・振興する政策がとられてきた。05年、ECは1万を超すエネルギー多消費型産業の事業所に、CO2の排出枠を割り当てる欧州排出量取引制度(EUETS)を創出した。この排出枠の取引によりロンドン・シティを中心に多くの企業が新しい収益源にありついた。
 
 07年、ECは20年のエネルギー・環境に関する20/20/20目標を発表した。これは、20年温室効果ガス排出量を1990年比20%削減、エネルギー効率を20%改善、再生可能エネルギー比率20%達成を打ち出したものだが、その後2020年の国内総生産に占める製造業比率を15%から20%に引き上げる目標も示した。製造業の大きな伸びはCO2排出増を招く可能性が高いにもかかわらず、だ。

 リーマンショック後の10年、ECは20年に達成すべき目標を定めた「欧州2020」を発表した。その中には温暖化対策20/20/20も盛り込まれていたが、中心は産業振興策だった。何もしなければ欧州諸国は二流国になるとし、新規雇用とより良い生活の創出を行うのが「欧州2020」の目的だった。製造業成長のため、国内総生産額の3%相当額の研究開発投資を行うことなどが盛りこまれた。

(出所)EU統計(2018)を基に筆者作成 写真を拡大

 12年、ECは当時GDPの約16%を占めていた製造業の付加価値額を、20年に20%にする目標を掲げた。温暖化対策を考えれば付加価値額当たりのCO2排出量が多い製造業ではなく、相対的に排出量が少ない金融、サービス業などの成長を図ることが望ましいはずだが、ECが製造業を成長戦略の柱にする理由は単純だ。雇用者数が多く、1人当たりの付加価値額、労働生産性が最も高い産業は製造業だからだ。

 今、EU主要国は運輸部門のCO2削減のため、内燃機関自動車の販売を禁止し、EVに切り替える方針を示す。ECは製造業の競争力強化のためAI などの重点分野を打ち出し、加盟国の企業が持つ技術・知見を集め、そのなかでEVに必要な性能の高い蓄電池の開発を行う方針などを打ち出している。このように、EUは温暖化対策を打ち出しながら、その一方で、経済成長、雇用増を図る産業政策を着実に実行するしたたかさがある。
 
  気候宰相と呼ばれる独メルケル首相も、温暖化対策よりも経済と雇用が重要と主張したことがあった。18年6月EUの環境大臣が集まった会議の席で、「ドイツにとり1番大切なのは雇用であり、CO2の問題は2番目だ」と述べ、環境政策により影響を受ける炭鉱、自動車産業の労働者の雇用がドイツでは最優先と明言した。


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