2024年11月22日(金)

脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本

2020年3月26日

「石炭投資中止」の本音 
結局は投資リスク次第

 欧米の金融機関、機関投資家もしたたかだ。欧州の金融機関は、石炭火力発電事業への投融資は止めたかもしれない。しかし、石炭火力の新設を行っている企業への投融資を止めたわけではないようだ。実際、石炭事業への融資を止めた欧州の金融機関が、石炭火力を建設しているインドネシアの電力公社への融資を継続している。また、製鉄用である原料炭を生産する企業に投融資が継続されていることがある。企業が手掛ける案件の事業リスクが少なく、リターンが確実な場合だ。

 昨年11月、英国の環境NGOは、世界大手57社の資産運用会社の温暖化問題に対する株主総会での賛成比率を調査した結果、世界最大手でTCFDサポーターのブラックロックの賛成率は6.7%で、世界ワースト3位と発表した。そのためか、今年1月、ブラックロックは石炭事業への投資を停止すると発表した。

 だが、その発表にも裏がある。ブラックロックは投資中止対象の線引きを、原料炭ではなく、発電燃料用の石炭である「一般炭」の生産で売り上げの25%以上をあげている会社とした。実は、米国で一般炭の生産を行っている企業というのは、シェール革命による石炭需要減により長期低迷が続き、会社更生法の申請が相次いでいる。ダウ・ジョーンズの石炭会社株価指数は11年の50分の1まで落ちている。そもそもそんな会社に投資する気にはならないだろう。

 一方で、株価が中期的に堅調に推移している世界最大の一般炭貿易会社グレンコアと、石炭大手の多国籍企業BHPビリトンは対象外となっている。BHPビリトンは一般炭ではなく価格が高い原料炭の生産が多い企業だ。

 金融機関が石炭事業への融資を止めたのは、リスクが高くなり将来の収益見通しが立たなくなったからだ。政治判断により廃止が決定されると石炭火力の操業期間が短くなり、当初の収益見込みは得られず、融資金が回収できなくなる可能性が高まる。石炭関連でもリスクが低ければ投融資対象であることに変わりはない。石炭への投融資を中止する判断基準は、「石炭関連かどうか」ではなく、「投資としての高いリスクがあるかどうか」だ。
 
 EUは温暖化対策をお題目に産業政策を推し進め、域内の成長と産業の保護を追求している。「気候変動は非常事態にある」というリスクをチャンスに転換させる、国境炭素税やタクソノミーなど欧州主導のルールが世界標準になっていくことに、日本政府や企業関係者からは懸念の声が出ている。

 例えば、EUの金融機関が揃って融資対象外にした石炭生産と石炭火力発電量は、EU域内では激減している。石炭への融資を取りやめても痛くもかゆくもない欧州金融機関の主張が世界標準になり、石炭火力が減少すれば電力料金上昇により日本企業の利益、国益は大きく損なわれるからだ。欧州の潮流ばかりに流されるのではなく、日本国内のエネルギー議論にしっかりと向き合うためにはどうすべきか。発売中のWedge4月号「脱炭素バブル」において、その提言とともに、日本の再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの現在地と課題についても紹介する。

Wedge4月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■脱炭素バブル  したたかな欧州、「やってる感」の日本
Part 1  「脱炭素」ブームの真相 欧州の企みに翻弄される日本
Part 2    再エネ買取制度の抜本改正は国民負担低減に寄与するか?
Part 3  「建設ラッシュ」の洋上風力 普及に向け越えるべき荒波
Part 4    水素社会の理想と現実「死の谷」を越えられるか
Column    世界の水素ビジョンは日本と違う
Column    クリーンエネルギーでは鉄とセメントは作れない
Part 5  「環境」で稼ぐ金融業界 ESG投資はサステナブルか?

  
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◆Wedge2020年4月号より


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