世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2020年4月10日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――韓国は、どのような活動をしているのでしょうか?

桒原:アメリカの各地で、韓国系アメリカ人はコミュニティを形成しています。ただ、各々のグループが組織的につながっているわけではなく、進歩派と保守派の団体があって、それぞれが活動目的を持って、例えば慰安婦像の設置活動などをしています。

薮中:韓国系アメリカ人は、政治的な意識が日系人に比べると強いのです。日系アメリカ人は「良きアメリカ市民になるんだ」という思いで暮らし、政治的活動はあまりしてこなかった。韓国系は地域でコミュニティを形成し、政治的な活動もするため、選挙にも影響を及ぼす。だからこそ、慰安婦像を全米各地で建てることに成功した。しかも、中国系の団体と慰安婦像ではうまく連携できた。

 慰安婦像に関して言えば、アメリカ社会で何に価値が置かれているかという時流を上手く捉えたのも大きかった。つまり、アメリカ社会では映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏が性的暴行で懲役23年の刑を受けたことからもわかるように、女性への性犯罪に対し世論はものすごく厳しくなっている。そういう流れにマッチしたことが大きいと思いますね。

桒原:慰安婦問題もそうですが、どれだけ日本の主張が正しくとも、その主張が働きかけたい相手国の社会や世論の流れ、そして関心事に合っていないと効果は発揮できません。

――そう考えると、慰安婦像に関しては、日本がいくら反論しても、女性への性暴力というポイントを外してしまっているため難しいと。なぜポイントがずれていたのでしょうか?

薮中:日本にいると日本の基準でしか考えなくなります。たとえば、新型コロナウイルスをめぐっては、日本ではオリンピックを予定通り開催するのかどうかが大きな関心事でした(編注:その後、2021年に開催されることが決まった)。しかし、世界から見れば、オリンピックよりも感染症の恐ろしさ、今後の生活がどうなるかなどが大きな関心事です。

 慰安婦像のときは、朝日新聞が虚偽の記事を掲載した、だから間違いを質し、正しい主張をしよう、というのが日本国内の考え方だった。ただそれは日本国内の理屈であって海外では通用しない。世界では、女性に対する性犯罪への目が極めて厳しくなっていましたから。

 パブリック・ディプロマシーを効果的に行うには、世界の動きや流れをきちんと理解していないといけない。外務省が弱気だからいかん、という批判もありますが、私は勝てる勝負をしないといけないと思いますね。

桒原:ニューヨーク・タイムズなどリベラルなメディアは、慰安婦問題にしろ、コロナウイルスにしろ日本に比較的厳しい論調が目立ちます。これに対し、日本政府は当該記事が誤った事実を報道していると判断すれば、政府の名前で反論投稿をしてきました。アメリカでインタビューをしても、関係者に聞いてもこうした反論投稿は効果的だという意見はあまり聞かないのですが、薮中先生はどうお考えですか?

薮中:基本的には物事を批判的に見るのが、本来のジャーナリズムの姿勢です。それに加え、ニューヨーク・タイムズはリベラルな思想を良しとするメディアですから、日本の主張が保守的だとして批判に回る。

 また、日本はどのようなパブリック・ディプロマシーが効果的かまだ理解できていない段階なのかもしれませんね。日本が批判されたり、間違った情報がメディアで流れると、これに反論するのは、パブリック・ディプロマシーの初歩の段階ですよね。しかも日本の総領事の名前で反論すると、「政府広報」だと見られてしまう。

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