2022年8月17日(水)

WEDGE REPORT

2020年4月21日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

 このように、中国は1月末以降、財政金融政策を矢継ぎ早に打ち出している。しかし、一方で政策の規模は控えめである。銀行貸出金利の平均水準は依然として4%以上であり、預金準備率も銀行の業態によって異なるが平均9.4%とまだ高く、金利や預金準備率をさらに引き下げる余地が充分存在する。財政支出も金額的にみて今のところそれほど大きくない。政府債務残高の対GDP比は50%程度に過ぎず、依然として財政赤字拡大の余地は存在する。中国政府はまだカードを使いきっていない。

本格的な総需要政策はこれから

 このように財政金融政策がまだ余地を残していることの背景として、国務院直属のシンクタンクである社会科学院のエコノミストは、以下のような考え方を示している。まず、中国のマクロ経済政策について3つの時期に分けて考える。第1段階は、旧正月の休暇期間(1月25日から2月10日)で、もともと生産が行われない期間だったので、ショックは主に需要面で発生し、旅行業、飲食、映画館などの消費需要が影響を受けた。第2段階は、旧正月休暇終了後、企業の生産再開が困難となり、主に供給面で影響が生じている時期である。第3段階は、生産体制が正常に回復したのち、主に需要不足が問題となる時期である。

 そして、それぞれの段階に合わせた政策が必要である。第1段階では、需要ショックに見舞われた産業や地域に対して、補助金の支払い、減税と手数料減免、貸出拡大などの支援政策が行われた。第2段階では、拡張的な総需要政策ではなく供給面の回復を目指す政策が主となる。金融政策は、十分な流動性を供給し信用システムを安定させ、財政政策は、減税を行い企業の生産コストを下げることで、供給ショックを和らげることに重点を置く。一方、主要な政策となるのは、生産体制の回復、人の流れと物流の回復を進める供給面の対応である。現状はこの段階にある。第3段階で、供給体制が整えば、財政・金融政策を全面的に発動して需要不足を補う必要がある。

 以上の見解に従うと、現状は第2段階であるため、需要刺激的な財政金融政策はまだ控えているということになる。財政金融政策は政策の余地を十分確保して第3段階に備えている。今後、供給サイドが充分回復した後、需要不足を補うため、より積極的な財政金融政策が発動されることになるものと考えられる。4月15日に開催された習近平総書記主催の共産党中央政治局会議において、財政政策では特別国債を発行して財政赤字率を高めてでもより積極的な支出を行うこと、金融政策では預金準備率の引き下げ、金利の引き下げ、再貸出の拡大を行うことが指示された。

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