2022年8月8日(月)

WEDGE REPORT

2020年4月21日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

リーマン時のように世界経済に貢献するか

 問題は、今後、経済政策によってどの程度の回復を目指すかである。中国は習近平が共産党総書記に就任した2012年11月の第18回全国代表大会において2つの百年という目標を打ち出している。1つ目の百年は中国共産党成立百周年の2021年までに小康社会を実現することであり、具体的な数値目標として2020年に2010年と比較して、GDPと国民の平均所得を2倍にするということが定められた。2つ目の百年は中華人民共和国建国百周年である2049年までに中等先進国となるというものである。

 この1つ目の目標を達成するため、2020年は5.6%の成長が求められる。4月17日に公表された2020年1~3月期の成長率は-6.8%と大幅な減少を記録した。2019年1年間の伸び率は+6.1%であったから非常に大きな落ち込みである。今年1年間で5.6%の成長を実現するためには計算上残る3四半期それぞれで10%程度の高成長が必要となる。3月18日の共産党中央政治局常務委員会において、習近平総書記は「小康社会の実現と、貧困からの脱出という目標任務の実現を確保する」と表明した。これは5.6%の数値目標の達成を意味するのだろうか。

 この点について、社会科学院のエコノミストは、前述の第3段階で、生産水準を正常に回復させるレベル(潜在成長率)まで需要を刺激するためには財政金融政策を充分発動すべきであるが、それを超えて、すでに発生したマイナスを取り返すための大規模な政策発動は避けるべきとする。財政金融政策の発動余地は充分存在するので、数値目標を達成できる可能性は存在する。しかし、潜在成長率を超えた経済成長を目指すと、資源配分が偏り、中長期的に経済構造をゆがめてしまう恐れがある。それは、2つ目の百年目標の達成をかえって困難にしてしまう。

 4月14日にIMFが公表した世界経済予測では、2020年後半に経済が正常化することを前提に、中国の2020年の成長率は1.2%まで落ち込み、2021年はその反動もあって9.2%の高成長となる見通しとなっている。2年をならすと5%台の成長となる。2020年の数値目標が未達に終わっても共産党成立百周年の2021年に小康状態を実現するという目標は実質的に達成されると見ることもできる。

 中国政府は、2020年の後半については潜在成長率程度を目指すにとどめ、V字回復をねらわない可能性が高い。リーマンショックの際は、中国は4兆元(当時のレートで約52兆円)パッケージという大盤振る舞いでV字回復を果たし、世界経済に大きく貢献したが、一方で中国の国有企業や地方政府はこの政策を受けて実施した不動産開発投資やインフラ投資などによって生じた過剰債務に後々苦しむこととなり、その後のマクロ経済の重荷となった。今回は中国が素早くV字回復して世界経済をけん引することを期待しないほうがよさそうである。

  
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