チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年5月6日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

魑魅魍魎たちのネットワーク

 『アフリカを食い荒らす中国』(セルジュ・ミッシェル、ミッシェル・ブーレ 河出書房新社 2009年)は、アンゴラの首都ルアンダに1996年にやってきた中国人を「アンゴラに最初に来た中国人の一人だった」と紹介しているが、この人物は「当時、アンゴラにいる中国人は一〇〇人程度だったね。そのうちの五〇人は大使館関係者だよ。ところが今はどうだい。北京のアンゴラ大使館で入国ビザを取得した中国人は二万人だ。けれども、私の感触じゃ、アンゴラにいる中国人は三万人だね」と語っている。

 同書のフランス語原書出版が2008年だから、セルジュ・ミッシェルとミッシェル・ブーレの2人の執筆者が取材した2008年以前のアンゴラ在住者は、最大限で2万人~3万人だったろう。ところが4年ほどが過ぎた時期の在住者を、ある中国人研究者は25.9万人と数えている。双方が示した数字が共に正しいとするなら、わずか4年ほどで中国人が20倍強に膨れ上がったことになる。なぜ、このような人口急増現象が起こったのか。背景に考えられるのは、中国からの投資ラッシュだ。

 その後、中国側投資企業との間で軋轢が生じたことで、アンゴラ政府系企業は中国の派手な活動を苦々しく眺めていた欧米への接近を見せる。だがアンゴラでの中国の優位は当分は揺るがないだろうと見る『アフリカを食い荒らす中国』は、中国の真の狙いを次のように推測する。

 「中国は、損失を覚悟で無数の契約を結び、アフリカに多大の資金を投資している。中国のアフリカ進出の狙いは、たしかに原材料の確保にある。だが、中国の大企業にとって、アフリカ進出は次の海外市場進出の《試金石》になっている。〔中略〕おそらく長期的には欧米市場に進出するための訓練を、アフリカで行っているのである」

 『喰い尽くされるアフリカ』(トム・バージェス 集英社 2016年)には、『アフリカを食い荒らす中国』から数年が過ぎたアンゴラで暗躍する「クイーンズウェイ・グループ」を名乗る中国人のナゾの投資集団の動きが記されている。同集団の傘下企業の香港での登記住所は、香港島の皇后大道(クイーンズウェイ)89号の力宝大廈(リッポー・ビル)に置かれているとか。

 実はリッポー・ビルはインドネシアで巨大華人企業集団のリッポー(力宝)集団を創業した華人企業家の大立者で、スハルト政権以降もインドネシアの政財界に隠然たる影響力を発揮するモフタル・リアディー(李文正)と深い繋がりを持つ。

 モフタルはアーカンソー知事時代からクリントン元大統領夫妻と親しく、スハルト大統領とクリントン政権の仲介役を務めただけではなく、人民解放軍中枢との関係も深い。2008年には、先に挙げた国務院僑務弁公室の後援を受け、タイの有力華人企業家のタニン・チョウラワノン(謝国民)と共に、華人企業と海外進出を目指す中国企業との仲介役を目指す中国僑投資企業協会を設立している。モフタルの案内でリッポー・ビルを訪問した超VIPのなかにはクリントン元大統領夫妻も含まれている。

 アンゴラ、香港、インドネシア、アメリカと点で繋げてみただけでも、魑魅魍魎たちのネットワークの一端を手繰り寄せることが出来る。やはり中国によるアフリカ侵食の構造は、「共産党政権の強欲・横暴。悪あがき」と決め付ければ済むというような“単純明快”なものではないことを心得ておくべきだ。

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