チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年5月6日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

アフリカにおける“不都合な真実”

 アフリカ全体での中国人在住数については100万人から200万人超まで――これまで様々に報じられてきた。もちろん、この中には旧世代も含まれるが、中国側が示す「世界各地華僑華人人口統計(2013年9月13日までの統計に基づく)」ではアフリカ全体で79.07万人に止めている。中国の活動を批判し警鐘を鳴らす人々は多目に、アフリカ各国の親中政権は極く控えめに数える傾向が強いようだ。

 中国側から言えば非合法移住者も少なくなく、実態の把握は難しい。それがまた移動⇒定住⇒移動を繰り返しながら新たな生活空間を求める歴史を繰り返してきた彼らの偽りのない姿である。だが、それだけではなくアフリカにおける“不都合な真実”を明らかにしたくないという事情も、中国側にあるはずだ。

 たとえば教育部(文部科学省に相当)の研究資金を受けて進められた中国の世界戦略構築に華僑・華人世代がソフトパワー面で果たす役割を研究した論文集『華僑華人在中国軟実力建設中的作用研究』(経済科学出版社 2015年)を見ても、ある論文ではガーナ在住者を465人としているのに対し、同時期を扱った別の論文では6000人となっている。

 ここに見える10数倍の違いは、統計上の誤差の範囲には納まりそうにない。6000人は広西チワン族自治区の中心都市である南寧市の調査(「2013年、南寧市上林出身の6000人以上の金採鉱者がガーナ在住」)に基づいているが、この数は計算上では上林(県)人口の45万人(2002年)の1.25%に相当している。

 統計を取った時期の違いを考慮したとしても、ある時期、上林住民の100人に1人強がガーナに出かけ金の採掘に関連する仕事に就いていたと見て間違いないだろう。過去の例に照らせば、6000人が集団で出掛けたというよりも、ガーナで成功した上林出身者が同郷の知り合いを呼び寄せ、上林からガーナへの人材派遣ルートが作られた。

 仕事が終わった後も現地定着をする人々は少なくないはずだから、やはりガーナ在住者は465人を遥かに超えていると見るべきだ。ガーナの一隅に上林出身者の同郷組織が生まれ、それが共産党政権による海外在住者工作機関である国務院僑務弁公室の統制下に置かれていたとしても、決して不思議ではない。

 上掲論文集の付表では、中央アフリカの産油国であるアンゴラの2012年段階での居住者は25.9万人と記されている。

 他の多くのアフリカの新興国で見られたようにアンゴラでも長い独立戦争が続いた。13年に及んだ戦いが終わった途端、1975年には部族の利害と資源をめぐって内戦が勃発した。一方をアメリカ、イスラエル、中国、アパルトヘイト政権時代の南アフリカが支援し、一方をソ連やキューバが後押しした。冷戦終結期を挟んで27間続いた内戦の後、最後に残った外国勢力は中国のみだった。ここから中国の官民双方に拠るアンゴラ侵食が始まる。

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