2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年5月6日

エチオピア支援はWHO代表という“成果”を生んだ

 最初に示した「新型コロナウイルス感染マップ」に基づいて感染者が多い順番に国名を上げ、その国の感染者数と主要地下資源(カッコ内)を見ておく。なおカッコがない国では特記すべき地下資源が認められない。

 5月3日午後1時半段階まで2位だったエジプトが6465人でトップに。1位だった南アフリカ(金)が6336人で2位に下がった。

 4000人台はモロッコ、アルジェリア(天然ガス、石油)の2カ国。

 3000人台は見られないが、2000人台はカメルーン(石油)、ガーナ(石油、天然ガス)、ナイジェリア(石油、天然ガス)。

 1000人台がコートジボアール(石油)、ジプチ、ギニア(アルムニュウム、石油、天然ガス)、チュニジア(石油)、セネガル(金、石油)。

 500人以上がニジェール(石油、ウラン)、ブルギナファソ(金)、コンゴ民主共和国(銅、コバルト、コルタン及び関連鉱物)、ソマリア、マリ(金)、スーダン(金、石油)。

 400人台~300人台がタンザニア(金)、ケニア、モーリシャス、赤道ギニア(石油、天然ガス)、ガボン(石油)。

 200人台~100人台がコンゴ共和国(石油)、ルアンダ(コルタン及び関連鉱物、錫)、リベリア(石油、鉄)、マダガスカル、ザンビア(銅)、チャド(石油)、シエラレオネ(ダイヤモンド、鉄、チタン)、エチオピア、カーボベルデなど。

 以下、99人以下の2ケタ台がモザンビーク(アルミニウム、石油)、リビア(石油)、ベナン(金)、ジンバブエ(ダイヤ、金、プラチナ)、アンゴラ(石油)、中央アフリカ(ダイヤ)、ナミビア(ダイヤモンド、ウラン)などと続く。

 ここで注目しておきたいのがエジプト、スーダン、ジプチ、エチオピア、ソマリア、ケニアの紅海とインド洋に臨む国々である。

 エジプトには安価な中国製品が大量に送り込まれている。インフラ、通信、建設、観光で中国が存在感を示す。スーダンはナイジェリア、コンゴ民主共和国の両国と並んで1兆円を遥かに超える規模の資金が投じられるが、広大な農地が買収され、中国への農産物供給基地と化す。人民解放軍が基地を置くジプチでは中国企業主導でインフラ建設が進み、ジプチからエチオピアまでは中国主導の鉄道が走る。

 中国によるエチオピア支援は結果としてテドロス・アダノムWHO(世界保健機関)代表という“成果”を生んだ。エチオピア出身の彼が指導するWHOは、新型コロナウイルス問題では一貫して中国寄りの姿勢を崩さない。習近平政権にとっては心強い衛兵だろう。

 首都のアディスアベバと北京の間はアフリカ=中国間の航空路の中でも早い時期に運航を始め、便数も最多である。

 スリランカ(ハンバントタン)⇒モルディブ⇒パキスタン(グワダール)⇒オマーン(ドゥクム)とインド洋を西に進んだ「一路」は、ケニアの首都ナイロビで転じ、オマーン沖を経て紅海に入りジプチからスエズ運河を経てイスラエル(ハイファ)⇒ギリシャ(ピレウス)からアドリア海を北上しイタリア(トリエステ)でヨーロッパ大陸に繋がる。

 まさにケニアは「一路」とアフリカを結ぶ要衝であると同時に、中国と欧州市場を結ぶ重要拠点に位置づけられる。エジプト、スーダン、ジプチ、エチオピア、ソマリア、ケニアの国々が、中国のシーレーンを固く守ることになる。

 今後、アフリカにおける新型コロナウイルス感染がどのような広がりを見せるのか。各国の医療態勢と共に先進諸国からの支援がカギとなるだろうが、アフリカに深く関係してきた欧米諸国にも現状では他国支援に回る程の余裕はないはずだ。

 かくして逸早く感染封じ込めに成功したと内外に喧伝する習近平政権は「友好」や「人類運命共同体」を打ち出し、アフリカで「新型コロナウイルス外交」を大々的に推し進めるだろう。

 「溺れる者はワラをも掴む」の喩に従うまでもないが、新型コロナウイルスをめぐる国際環境からして、アフリカの国々が習近平政権が仕掛ける「新型コロナウイルス外交」を拒否するとは思えない。だが習近平一強体制はハリボテであり、崩壊への道を突き進んでいるとの観測もにわかには信じられない。当面の最大の障害であるトランプ政権は、年末の大統領選に手足を縛られる。その虚を衝いて、習近平政権はさらに強欲な対外路線を突き進むはずだ――なにやら習近平政権の“哄笑”が聞こえてくるようだ。

 ここで思い当るのが「泥菩薩過江、難保自身」の9文字である。衆生を導いて河を渡ろうとしても、ドロの菩薩なら自分が川の中で融けて消え去ってしまう、といった意味合いで謎かけである。

 もうこうなったら「新コロナウイルス後」の世界は、習近平国家主席に「泥菩薩」を演じてもらうことを期待するしかないのだろうか。

  
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