世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月15日

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 4月12日にサウジアラビアやロシアなどは970万バレル/日の削減合意をしたが、その効果については大方が懐疑的な見方をしている。例えば4月18日付けのエコノミスト誌の社説‘The future of the oil industry’は、減産合意は新型コロナウイルスによる石油に対する需要の大幅減などのため効果を上げないだろうと指摘したうえで、 それよりも世界の石油産油国とって大きな問題は構造的な痛みが長期にわたるであろうことである、と述べている。

UmbertoPantalone/iStock / Getty Images Plus

 最大の問題は、需要の長期停滞の恐れである。諸国は新型コロナウイルスの危機がいずれは終息し、経済がV字型回復することを期待している。

 しかし、一旦ここまで収縮した経済活動を元に戻すのは容易ではない。多くの企業は今回の コロナウイルス危機でサプライチェーンが断絶され大きな損害を被った。部品などの製造を別の国に移したり、サプライチェーンを重複させてリスクを分散させればコストが高くなり、製品の価格が上がる。そうすれば取引が減り、それに見合った輸送の需要が減るだろう。また、在宅勤務はやむを得ず実施されたものであるが、やってみるとメリットもあり、業種によっては在宅勤務が広く行われるかもしれない。そうすると、交通機関利用の需要が減る。このように コロナウイルス危機が克服され、経済が回復しても石油に対する需要は元に戻らない恐れがある。

 もう1つ長期的に石油に対する需要が減る要因として考えられるのは気候変動である。上記のエコノミスト誌の社説は、新型コロナウイルス対策の結果、自動車、航空機などの利用が大幅に減り、大気汚染が目に見えて改善されたことを指摘している。NASAの人工衛星の観測データによれば、米国北西部上空の大気に含まれる窒素酸化物は30%も減ったとのことである。またインドから30年ぶりにヒマラヤ山脈が見えたとの報道もある 。上記社説は、その結果、世論が化石燃料に依存する経済からの移行を速めたほうがいいと思うようになるかもしれない、と言っている。

 実際にそのように考えるかどうかは別として、異常気象がもたらす災害の大規模化などから気候変動への危機感が強まれば、化石燃料の使用量にこれまで以上にブレーキがかかる可能性が高い。気候変動は確かに長期的に石油に対する需要が減る重要な要因である。

 石油価格の暴落で大きな痛手を蒙っているのが米国のシェール業界である。シェール燃料の専門家のBethany Mclean は4月10日付けニューヨーク・タイムズ紙に「コロナウイルス が米国のシェールの夢をつぶすかもしれない」という論説を書いている。Mcleanによれば、石油の価格がバレル当たり55ドルであった時にすら利益を上げていた会社はわずかであった。シェール産業が飛躍的に発展したのは超低金利の中で未公開株式を扱うような投資会社が巨額の資金を投資したためであって、石油の価格がバレル当たり20ドル前後の今、シェール業界は未曽有の金融危機に直面している、と述べている。すでに Whiting Petroleumというシェール会社が破産を申請し、テキサス州だけでも何千という従業員が解雇されたとのことである。

 米国はシェールオイルのおかげで世界一の産油国になったのであって、シェール業界が危機に瀕すれば、世界一の産油国の地位も危なくなる。シェール業界とシェールオイルの一大生産地であるテキサス州はトランプの重要な支持基盤でありトランプはシェール業界の救済のためあらゆる努力をするであろうが、有効な手は打てそうにない。そうなれば、秋の大統領選挙にも影響が出てくる。

  
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