WEDGE REPORT

2020年4月1日

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小山 堅 (こやま・けん)

日本エネルギー経済研究所・首席研究員

1986年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、日本エネルギー経済研究所入所。英国ダンディー大学博士課程修了(PhD取得)。2011年より常務理事。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。

 原油価格が歴史的な暴落となっている。指標原油、米国産WTIの先物価格(期近限月、終値)は、3月30日には1バレル20.09ドルと、20ドル割れ寸前となった。この価格水準は2002年2月以来、18年ぶりの低位にある。WTIは、20年初には60ドルを超えていたが、じりじりと値を下げ、3月以降は急落となった。

 油価急落の原因は2つある。第1には、新型コロナウイルスの感染拡大が「パンデミック」となり、世界経済に急ブレーキがかかったことで世界的に石油需要が大きく落ち込んだためだ。需要減少で、もともと供給過剰気味であった国際石油需給は一気にだぶついた。

 それに輪をかけたのが、OPECとロシアなど「OPECプラス」産油国の協調減産体制が崩壊したことだ。3月初、OPECプラスの会合で新型コロナウイルスによる需要減少に対応するため、追加減産が提案されたがロシアはそれを拒絶、減産体制が崩壊した。その後、サウジアラビアなどOPECも一転して増産競争に打って出て、市場は価格競争に突入した。本来、原油価格を下支えするはずだった協調減産が無くなり、価格戦争に転じたことで原油価格は「フリーフォール」状態に陥ったのである。

(sigoisette/gettyimages)

協調減産はなぜ崩壊したのか?

 原油価格の下落は、産油国にとって経済的大打撃となるため、それを回避するのが当然のはずだ。それなのに、なぜ今回協調減産が崩壊し、価格戦争となったのか。

 まず、協調減産崩壊の引き金を引いたロシアは、米国シェールオイルの増産に歯止めをかける、という戦略的な狙いがあった。OPECプラスが減産して原油価格を支えると、相対的に生産コストが高い米国シェールオイルの生産拡大を助けることになり、「敵に塩を送る」ことになる。

 ロシアは米国(および欧州)による経済制裁に苦しみ、国際政治面では対決色が強まっている。米国の国力増大を支えている主要因の一つが「シェール革命」による石油・ガスの増産であり、それを背景にした「Energy Dominance」であることを考えると、油価を下落させてでもシェールオイル増産に歯止めをかけることの意義をロシアは戦略的に強く意識していた。 

 一方、OPEC側、中でも盟主のサウジアラビアは、ロシアが協調を拒絶する以上は、敢えて「肉を切らせて骨を断つ」戦略に打って出たと見ることができる。需給の大幅緩和による価格下落に対しては、究極的には産油国間の協調減産が必要だが、現状ではそれが無理と判断、油価下落を許容して、産油国に強い痛みを共有させることで協調減産体制の新たな再構築を狙ったものと考えられる。また、ロシアと同様、米国シェールオイルの増産を抑制することも視野に入れていたとも考えられる。

増産競争、価格戦争の行方

 米国シェールオイルを意識した価格戦争は主要当事国・当事者にどのような影響を及ぼすのか。あるいは、当事国・当事者は低価格にどれだけ耐えられるのか。この問題を見る上では、石油生産コストと経済運営上の耐性という2つの視点がある。 

 まず生産コストについては、サウジアラビアが圧倒的に優位な立場にある。サウジアラビアの生産コストは1バレル10ドルを大きく下回ると見られ、現在の低油価でも採算性を確保できる。逆に最も生産コストが高いのは米国シェールオイルであり、平均的に見れば40ドル前後との見方もあって、現在の価格水準ではコスト割れとなる。ロシアはサウジアラビアと米国の中間に位置しよう。

 一方、経済運営上の耐性に関しては、サウジアラビアは厳しい。イエメンとの内戦等による巨額の軍事支出、国民への経済的補助等への支出を賄うため、国家財政が均衡するために必要な原油価格は80ドルを超えるとの見方もある。ムハンマド皇太子が主導するサウジ経済を多様化するための「サウジビジョン2030」の実現のため、そしてそのビジョンの象徴とも位置付けられる国営サウジアラムコのIPO成功のためにも、原油価格は高い方が望ましい。

 ロシアも石油依存型の経済構造ではあるが、財政均衡のための原油価格は40ドル程度とされる。石油効果各時代に積み上げた「基金」の取り崩しもできる。他方、この面で米国は財政収支均衡にとって原油価格の問題は関係がない。 

 ロシアは、原油価格が大幅低下すれば、サウジアラビアが早晩音を上げると見ていたとの見解もある。しかし、現実にはそう簡単にはいかないだろう。サウジアラビアはそれだけの覚悟を決めて価格戦争に突入したわけであり、財政支出を削減し、いざとなれば国債の新規発行や資産取り崩しでも対応できる。海外からの資金調達は、欧米からの経済制裁下にあるロシアには容易でない手段である。

 また、価格が低下した分を「量」で補填するという面でもサウジアラビアに分がある。世界で最大の余剰生産能力を有するサウジアラビアは、それを活用することで「量」を稼ぐことが誰よりもできるからである。

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