2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月2日

 サウジとロシアの原油増産、そして、新型コロナウイルスの大流行に伴う経済停滞による大幅な需要減の見通しもあり、原油価格が急落している。これは、米国のシェールオイルに大きな打撃を与えることになるだろう。エネルギー問題の権威ダニエル・ヤーギンは、‘Covid 19 Makes Oil Markets Sweat’と題する論説を3月10日付けでウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿している。

narkorn/iStock / Getty Images Plus

 論説が指摘する主要点は次の通りである。

・サウジとロシアの原油協調減産体制が崩壊したが、ロシアの第一の標的は米国のシェール産業である。サウジは米国のシェールの存在を受け入れているが、ロシアは、戦略的競争者である米国にマーケットシェアを譲ることに疑問を呈し、米国のシェール生産の削減を図ろうとしている。

・原油価格の低下は、米国がロシアの天然ガスをバルチック海経由でドイツに送るノルド・ストリーム2のパイプラインに課した制裁への仕返しである。

・サウジとロシアは原油の低価格生産国であり、マーケットシェアを確保するため原油の価格下落に耐えうるが、米国を含む他の生産国はそうではない。米国のシェール生産は横這いになるか、原油の低価格が続く場合には、減るだろう。

 出典:‘Covid 19 Makes Oil Markets Sweat’(Daniel Yergin, WSJ, March 10, 2020)
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 米国のシェールオイルは近年、世界の石油市場に革命的変化をもたらした。米国のシェールオイルの生産量は2010年までは一日当たり100万バレル(100万B/D)を下回っていたが、その後急速に増え、米エネルギー情報局(EIA)の発表では、2019年12月の生産量は913B/Dとのことであった。シェールオイルの増産を背景に米国の原油生産量は2018年、ロシア、サウジを抜いて45年ぶりに世界最大となった。2019年には1949年以来70年ぶりに原油の純輸出国になったとのことである。

 シェールオイルの増産はAIやIoTの活用を含む技術革新と南部のバーミアン地域のように生産性の高い地域への開発の集中によって、採算分岐点が下がったことが原因である。採算ラインは2019年4月の時点で平均1バレル48ドルと言われ、1バレル23ドルの鉱区も出現したとのことである。ブルームバーグ社は、米国のシェールオイルは1バレル40ドルで生き残れると言っている。

 したがって、今回のサウジとロシアの増産等により原油価格が下落し続け、1バレル40ドルを切るようだと、米国のシェールオイル産業は大きな打撃を受ける。新型コロナウイルスの世界的拡散により、世界経済が縮小する恐れがあり、今や原油価格の代表的指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)先物の価格は、20ドルを切ろうかというまでになっている。今後原油価格の推移いかんによっては米国のシェール企業の中には倒産したり、合併を余儀なくされるものが出る恐れがある。米国の原油生産量を世界一に押し上げた原動力であるシェールオイルは試練の時を迎えている。

  
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