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2020年5月20日

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五十嵐 中 (いがらし・あたる)

横浜市立大学医学群健康社会医学ユニット准教授/東京大学大学院薬学系研究科客員准教授

2002年、東京大学薬学部薬学科卒業。08年、東京大学大学院薬学系研究科博士後期課程修了。同大学院特任助教・特任准教授を経て、現職。専門は薬剤経済学。著書に、『薬剤経済わかりません』(東京都書)など。

「抗体」検査と「抗原」検査?

 5月13日、新型コロナウイルス感染症に対する抗原検査キットが厚生労働省で承認され、「患者であることが疑われる者」に対する保険適用も認められた(注13)。保険での検査費用は6000円だが、自己負担は発生しない。

 抗体検査に名前が似ている抗原検査だが、機能としてはむしろPCR検査に近い。「感染した経験があるかどうか?」ではなく、「今まさに感染・発症しているか?」を見る検査である。PCR検査がウイルスの遺伝子を検出するのに対し、抗原検査はウイルスについているタンパク質を検出するものである。インフルエンザの迅速診断は、この抗原検査の一種である。

 抗原検査のメリットは、医療機関で30分程度で判定ができることである (PCRは数時間かかる)。しかし迅速である分、見逃しのリスクはPCRよりも高くなる。

 保険適用の際に検討された資料によれば、PCRで陽性だった検体を抗原検査でも「陽性」と判定できた割合・陽性一致率が二つの試験で評価された。結果として一致率は37% (10/27例)と67%(16/24例)で、やや低い数値である。すなわち、抗原検査で陰性となっても、見逃し例が多くなる可能性がある。

 そのため、保険適用に際して、「除外診断(陰性ならば感染なしと判断すること)には不適であり、陰性の場合には医師の判断でPCR検査を行う必要があること」を明示した。迅速である分見逃しが多いこと、決してPCR検査を置き換えるものではないことには、注意が必要である。

抗原検査のフロー(厚生労働省資料) 写真を拡大

 ここまで、抗体検査の特徴と限界を、できるだけ簡潔に紹介してきた。想定より多くの人が潜在的に感染しているとはいえ、「多くの人に感染経験があり、これ以上は広まりにくくなる」集団免疫の状態にはほど遠い状況にある(集団免疫に必要な抗体保有率は、感染力にもよるがおおむね50%以上)。検査で分かることと分からないことを切り分けたうえで、これまで行われてきたようなフィールドでの研究がさらに進むことを期待したい。

(それぞれの研究のより詳細な紹介は、https://note.com/ataruiに掲載している)

<参考文献>

1) Mizumoto K, Kagaya K, Zarebski A, Chowell G. Estimating the asymptomatic proportion of coronavirus disease 2019 (COVID-19) cases on board the Diamond Princess cruise ship, Yokohama, Japan, 2020. Euro Surveill. 2020;25(10):2000180.[https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.10.2000180]

2) Sethuraman N, Jeremiah SS, Ryo A. Interpreting Diagnostic Tests for SARS-CoV-2. JAMA. Published online May 06, 2020. doi:10.1001/jama.2020.8259[https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765837]

3) WHO. "Immunity passports" in the context of COVID-19. Scientific Brief 24 April 2020.[https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/immunity-passports-in-the-context-of-covid-19]

4) 厚生労働省. 抗体検査キットの性能評価. 2020.5.15. [https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000630744.pdf]

5) Streek H, Shulte B, Kuemmerer B, et al. Infection fatality rate of SARS-CoV-2 infection in a German community with a super-spreading event. MedRxiv 2020.05.04.20090076; doi: https://doi.org/10.1101/2020.05.04.20090076. [https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.04.20090076v1]

6) Bendavid E, Mulaney B, Sood N, et al. COVID-19 Antibody Seroprevalence in Santa Clara County, California. MedRxiv 2020.04.14.20062463; doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.14.20062463. [https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.14.20062463v2]

7) 慶應義塾大学病院. 新型コロナウイルス感染症に関する当院の状況について. 2020.5.1. [http://www.hosp.keio.ac.jp/oshirase/important/detail/40185/]

8) 大阪市立大学. プレスリリース 新抗体価測定システムが高い精度で陽性を判定! ~疫学調査により、大阪では 1%程度が抗体を保持~. 2020.5.1.[https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2020/200501]

9) Takita M, Matsumura T, Yamamoto K, et al. Preliminary Results of Seroprevalence of SARS-CoV-2 at Community Clinics in Tokyo. MedRxiv 2020.04.29.20085449; doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.29.20085449. [https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.29.20085449v1]

10) Doi A, Iwata K, Kuroda H, et al. Estimation of seroprevalence of novel coronavirus disease (COVID-19) using preserved serum at an outpatient setting in Kobe, Japan: A cross-sectional study. MedRxiv 2020.04.26.20079822; doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.26.20079822 [https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.26.20079822v2]

11) Coronavirus Antibodies Present In Nearly 25% Of All NYC Residents, Cuomo Says; Un-PAUSE In Certain Regions Of NY Might Begin In May. [https://newyork.cbslocal.com/2020/04/27/coronavirus-antibodies-present-in-nearly-25-of-all-nyc-residents/]

12) FDA. Insight into FDA’s Revised Policy on Antibody Tests: Prioritizing Access and Accuracy. 2020.5.4.[https://www.fda.gov/news-events/fda-voices/insight-fdas-revised-policy-antibody-tests-prioritizing-access-and-accuracy]

13) 厚生労働省. 中央社会保険医療協議会 総会 (第458回)議事次第. 新型コロナウイルス感染症に係る抗原検査の保険適用に伴う対応について. 2020.5.13. [https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00073.html]

  
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