経済の常識 VS 政策の非常識

2020年7月7日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 ところが、検査の拡充を、臨床医が求め始めた。医師会が自分で調べると言い出し、大学病院が、来院する患者の検査を始めた。医師は患者の気持ちに向き合っており、患者に院内感染を起こされては困るからである。

接触8割削減は甚大なコスト

 感染症専門家が対策として提案する接触禁止こそとんでもないコストがかかる。接触8割削減で、外出できず働けず消費できずのコストは、GDPの低下で考えると数十兆円である。医療体制の整備コストは数兆円の話である。経済を止めることのコストが見えていなかったのではないか。緊急事態宣言が解除された後、コロナ禍の第二波、第三波が来るのならなおさら、医療体制の整備が必要だ。

 つまり、ワクチンや治療薬が十分に世界中に出回るまでの間は、コロナと付き合っていかないといけない。これから、さまざまなイベントの再開が期待されている。ビジネスを中心とした国際的な往来も必要だ。オリンピックでも検査が必要だろう。社会の恐怖感を抑えて経済活動を取り戻す上では、迅速で精度の安定した検査システム、感染者追跡のためのシステムが必要になる。これらの検査は、他人にうつさないためでもあるが、基本的には自分のビジネスのためだ。当然、費用を取ることも必要だ。

 図は、人口100万人あたりの検査数(折れ線グラフ)と感染者数(棒グラフ)、死亡者数(感染者数の隣に記載)を示したものである(5月20日現在)。日本はアジアの中で検査数が少ない。台湾は検査数が少ないが、感染者も死亡者も少ないうちに収束したので、検査する必要がなくなってしまった。欧米と比べても、人口100万人あたり米国は検査数が3万6960件、感染者数が4617人、死亡者数が278人、イタリアが同5万2458件、同3749人、同532人となっており、日本は検査数も感染者数も死亡者数も少ない。欧米は日本の20倍前後、韓国も7倍も検査をしていることから考えて、検査にそれほど高いコストがかかるはずはなく、機械ですれば時間も減らせる。

(出所)「Our World in Data」を基にウェッジ作成 
(注)折れ線グラフは100万人あたりのPCR検査数、棒グラフは同感染者数、
   括弧内は死者数(5月20日現在)。
(イラストレーション=藤田 翔) 写真を拡大

 感染対策では、経済コストを狭い意味でしか考えていなかったのではないか。フリーアクセスと皆保険の国の国民は、感染症専門家の発想に戸惑い、政府に怒りをぶつけた。政治家は、国民がなぜ怒っているのかが分からなかった。すべては患者のためと考えて問題を整理し直すことが必要だ。

 医療の役目は治療である。しかし、治療の過程で医師や看護師が感染すれば治療ができない。PCR検査は医療を守るためにも必要だ。大量に検査すれば検査が効率化できる。疑わしい人、感染すれば大規模な感染が起きそうなところでは検査が必要だ。感染者を特定化して隔離できれば、経済活動も再開しやすくなる。患者を優先して考えることが、経済コストの削減にもつながるのではないか。

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