2022年12月6日(火)

Wedge REPORT

2020年6月25日

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上林功 (うえばやし・いさお)

追手門学院大学准教授

1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチをおこなう。

スタジアム観戦をほうふつとさせるサービス

 そのほか「共有」をキーワードに各チームの開幕戦での取り組みを見ていくと面白い。横浜DeNAベイスターズの「オンラインハマスタ」では、オンライン上での試合放映に加え、球団OBによる解説・トークショーをおこなっている。一方的な視聴コンテンツではなく、参加型の双方向デザインとしており、解説に対する視聴者の質問タイムなどを設け、単純な視聴に留まらない仕組みを随所にちりばめている。

 その中でも何より注目したいのは、オンライン会議アプリを使い、スタジアムのメインビジョンに応援映像を投影するもので、抽選で選ばれたファンが応援する姿をスタジアムに映し出す。この「オンラインハマスタ」は登録制とし、事前にネットチケットの登録によってオンライン会議アプリのグループに参加できる。まさにオンラインシステムを利用したスタジアムの「共有」で、メインビジョンに映し出された自分が応援する姿を見るなんてのは、往年のスタジアム観戦でのファンサービスをほうふつとさせる。現在は登録のみでのスタートではあるが、今後はオンラインチケットでの収入や、アプリ視聴に伴うバナー広告、CM動画などの挟み込みで広告料収入も見込めるプラットフォームともいえるだろう。

 まずはこうした収入に繋げるためにも、不慣れなオンライン観戦を盛り上げていくため色々と手探りで工夫を凝らしているのは、我々スポーツ観戦者にとっても面白い取り組みである。

 オンライン会議アプリを使用したリモート応援のシステムは、韓国プロ野球などでも導入されており、大画面に映し出されたファンの姿や声援が試合に華を添えている。ただ、まだまだ課題も多く、例えばいきなり画面の向こうで洋服を脱いでしまったたりといったハプニングに即座に対応できないのが悩みどころである。人工知能を使ってヤバい映像を暗転させるなんてアイデアもあるようで、とんでもないところでIT化が進むものだなあとつくづく感じる次第である。

 別の切り口で、スタジアムでのいろいろなシーンを「共有」するのはソフトバンクホークスの「FR SQUARE」。打者をあらゆる角度から見られる自由視点映像を提供し、スタジアムの各観客席エリアの視点をカバーしている。また、VRゴーグルでまるでダグアウトに入ったかのようにベンチの様子を360度見渡すことができるなど、オンラインを通じたスタジアムそのものの「共有」体験を通じてファンとスタジアムを近づけるサービスを展開している。

 これらのサービスを支えるのは親会社のソフトバンクが進める総合的なエンタメコンテンツ提供メディア「5G LAB」である。スポーツに留まらず、エンタメやライブスポーツ、ゲームに至るまで、あらゆる映像コンテンツを展開しており、これらを支える超低遅延・大容量の通信規格5Gを大々的に活用した国内初のプラットフォームとなっている。

 こうしたリモート観戦技術が進み、ファンが楽しみながら実践することによってモバイル視聴やオンライン視聴が普及していくのではないかと予想している。リアルに皆んなで集まって盛り上がりたいというなら、3密を避けて公園のような広い場所でファンが何となく集まって、みんなでスマホを使ったパブリックビューイングをするなんてこともあり得るかもしれない。

 メジャーリーグを見に行くと、スタジアムには必ずと言っていいほど、密集してみる観客席以外にバーベキューエリアや公園のようなオープンスペースがスタジアム周辺に設置されていて、スポーツ観戦自体がなんておおらかなんだと驚いたりする。これは国内スタジアムがいかに密集、密接であるかの証左といえるんじゃないかと思う。今回のコロナ禍を機会にギュウギュウ詰めに観戦者をスタジアムに入れるスタイルから、球場エリア全体をつかったオープンなスポーツ環境づくりにシフトすべきではないか。

 リモート観戦をより楽しめる仕組みも組み合わせれば、座席に数時間拘束されるような観戦スタイルではなく、スタジアムやその周辺を巡るといった多様な観戦スタイルを選択できるなど、これまでのものと抜本から変えるきっかけになるんじゃないかと想像は膨らむ。

 「離れたからこそ気づいた事がある」なんて遠距離恋愛の歌詞ではないが、遠隔での試合体験のデザインを改めて考えることでこれまで手が届かなかった観戦サービスのきっかけが生まれ始め、各チームがそれぞれにチャレンジを始めている事はむしろ喜ばしいことだと思う。未来のスポーツの胎動を感じると言っても言い過ぎではないんじゃないかと思いながら、今日も配信を楽しみに仕事に励むのである。

  
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