五輪を彩るテクノロジー

2020年4月14日

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黒井克行 (くろい・かつゆき)

ノンフィクション作家

1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学研)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)、『指導者の条件』(新潮新書)、『ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎)他多数。

 「練習は裏切らない」。高橋尚子氏や野口みずき氏ら金メダリストたちの口癖である。

 一秒を削るためならどんな犠牲をも厭わず、過酷でも心肺機能を高めるためならばと、酸素の薄い高地での練習環境を求めてはるばるアメリカやスイスにまで遠征し、長期の合宿を張り、栄光を掴んだ。

 この自然が作り出す稀有な練習環境が、テクノロジーにより昨年11月、東京豊洲に生まれた。世界最大級を誇る都市型低酸素トレーニング施設「ASICS Sports Complex TOKYO BAY」だ。

トレーニングルームは標高と酸素濃度が表示され、低酸素環境の中でトレーニングできる(ASICS SPORTS COMPLEX)

 アスリートはこの人工的に作り出される低酸素空間でのトレーニングによって持久力を向上させ、闘いに向けた最高の準備を図れることになった。もう海外にまで足を運ぶまでもなく、国内においても高橋氏らが恩恵を受けた練習環境に浴することができるのである。

 そもそも我々が普段生活している世界は酸素濃度が20・9%であるが、この施設ではそれを制御して標高2000~4000メートルの高地と同じ低酸素濃度(12~17%)にすることができる。3000平方メートルのトレーニングエリアに50メートルのプール、ウエイトマシンや最新のランニングマシンも豊富に揃え、ここで行うトレーニングは高地で受ける負荷を期待できるのだ。

 「まず、アスリートは短時間のトレーニングで今までと同じ効果を得ることができる。つまり、少し体を動かしただけで血中酸素濃度を下げることができ、体内の赤血球やヘモグロビンの数を増加させ、血液中の酸素を体内で運ぶ能力を改善させていく。それが短時間で生み出されることは関節や筋肉への負担を軽減することができ、全身持久力や筋持久力の向上を図っていく」

 施設を管理運営するアシックス・スポーツコンプレックスの松田卓巳社長は施設の有効性を説く。他にも血管拡張による血管の柔軟性促進や糖代謝の改善といずれも高地トレーニングとの同様の効果が認められるが、「高地ではトレーニングを終えた後も、高い気圧が身体にかかったままの生活が強いられる。たとえば、就寝時も高い気圧という負担から免れられず、その分を疲労として蓄積してしまう。ここではそんな余計な疲労を抱え込まない」と施設ならではのアドバンテージも語る。

 ちなみに五輪を目指すアスリートに限らず一般の人でも、たとえば、血糖値が高くて健康に不安のある人はここで体を動かすことで糖代謝を促進させ数値の改善が見込まれるという。

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