Washington Files

2020年6月29日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「あんた、アンジェラ You、 Angela!」と名指し

 二つ目は、これと関連したトランプ氏とメルケル首相とのかねてからの確執だ。「ザ・ニューヨーカー」誌の報道によると、きっかけは2018年7月、ブリュッセルで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議最終日の会合におけるトランプ氏の異常ともいえる振る舞いだった。

 各国首脳がウクライナ、グルジアのNATO加盟問題を審議中の会場に一人だけかなり遅れて入ってきたトランプ氏がいきなり、メルケル首相に向かって「あんた、アンジェラ You、 Angela!」と名指した上で、「ドイツの防衛分担は決定的に足りない」「その一方でドイツ車を米国市場に垂れ流している」などとこきおろし途中退場。挙句に、会議場の外に待機する報道陣向けに「メンバー諸国には自分が圧力をかけた結果、いずれもGDP4%にまで防衛支出の引き上げを検討させることになった」とまったく根も葉もない作り話の披露に及んだ。

 大統領はそれ以前にも、2016年11月末、離任を前に訪欧したオバマ大統領のためにメルケル首相が個人的に心のこもった夕食会を開いたことに“嫉妬と恨み”を抱き続けてきたという。

 そして就任式直前の2017年1月には、英タイムズ、独ビルト紙両紙との共同インタビューの中で「メルケルは100万人以上の移民受け入れという悲劇的間違いを犯した」と内政干渉とも受け取れる痛烈な批判を行い、両国関係をこじらせた。

 これを受け、メルケル首相は同年3月、トランプ大統領が打ち出した移民制限、イスラム教徒入国禁止措置などに関連して、その不当性を明確に指摘するなど、対立を深めつつあった。

 2018年6月、カナダ・ケベックで開催されたG7サミットでは、最終日にいったんまとまったはずの「共同宣言」の内容に不満を抱いたトランプ大統領が署名を拒否、このため発表はお流れになったが、腕組したまま椅子から離れないトランプ氏の前にメルケル首相が敢然と立ちはだかり糾弾するなど、騒然とした雰囲気になったこともある。

 ただ今回、メルケル首相が当初6月後半開催予定だったワシントン・サミットへの出席を辞退したことが、上記のような両首脳の感情のもつれに起因するとの見方は少ない。辞退理由は純粋に、コロナウイルス感染拡大を懸念したためとみるのが自然だ。

 実際、米国では6月半ば以降、感染が再び広範囲にわたって拡大し始めており、南部諸州でもいったん経済活動再開のため解除した「外出自粛令」を再発動する動きも報告されている。

 それでもトランプ大統領にとっては、偉大なる“政治ショー”となるはずだったG7サミット延期のやむなきに至ったことが、大きな痛手となったことには変わりない。さらに、今後のコロナ感染状況次第では、果たして9月開催も実現できるかどうか、雲行きも怪しくなりつつある。

 一方、ドイツ政府当局者の間では、トランプ・ホワイトハウスによる、駐独米軍削減に続く次の“報復措置”もありうるとして、警戒の声が出始めているとも伝えられる。

 いずれにしても当分、トランプ vs メルケルの個人的確執が容易に解消するとは思われず、両国関係も正常化するのは、11月米大統領選挙以降になりそうだ。

  
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