Wedge REPORT

2020年7月3日

»著者プロフィール
閉じる

上林功 (うえばやし・いさお)

追手門学院大学准教授

1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチをおこなう。

コロナ前にも検討されていたリモート応援

 実はこうしたオンライン会議ツールをスタジアムの応援に導入しようとする動きは以前からあったのだが、意外と話題にのぼらず知られていなかったりする。2014年にマンチェスター・ユナイテッドがGoogleとの連携企画として、ラインサイドのLED広告に抽選で選ばれたサポーターが横並びにマルチ画面で写されて、リモートで応援に参加できるイベントが行われたことがある。今まさにオンライン会議ツールを使って考えられている仕組みと同じものなのであるが、これが定着することはなかった。何故ならばリモート応援のその場所はまさにスポンサー企業の主要な広告掲出場所であり、バッティングしてしまったのである。

 オンライン会議ツールをつかった双方向のリモート観戦は、スタジアムまで足が重かったサポーターやファンに対するリーチとしてこれ以上ないサービスだと考えている。今後スタジアムでの限定的な有観客試合が始まっても、多様なキャッシュポイントとしても活用できるではないか。ぜひスポンサーと共存できるようなLEDパネルの設置場所も含めて今から検討してもらいたいものである。

 コロナ禍というハードルの中にあって、スタジアムそのものがIoT/ICT化している事は大変興味深い。リモート観戦に関する整備のみならず、今後の有観客によるスポーツ観戦が再開されれば、体温を測るサーマルカメラや、接触箇所をカウントする映像解析などAIカメラの活用が進むほか、チケッティングもリスクを避けた非接触によるeチケットに置き換わっていくなど劇的な変化を遂げるものと予想している。

 個人的に期待したいのは、さらにその先である。IoT/ICT化はそれそのものが目的ではなく、いろいろな事ができるようになる方法・手段の充実と言える。コロナ禍で取り入れた様々な設備は、今後のスタジアムビジネスに大きなチャンスを広げると考えている。

 既にその萌芽は見え始めている。例えばラ・リーガのFCバルセロナはこのコロナ禍において、オンラインで使用できるデジタル資産「ファントークン」を世界に向けて発行し、セール開始から2時間で130万ドルの売り上げを達成した。ファンはクラブのファントークンを購入することでクラブが開催する投票イベントに参加し、デジタル体験やスタジアムツアー等の様々な報酬を手に入れることが可能となる。

 こうしたことが可能となった一因として、IT化もさることながら、もともとFCバルセロナが取り組んでいたスタジアムツアーが充実していたことだ。プロサッカーの年間試合日数は意外と少ない。世界的にも有名なFCバルセロナでも試合数が多いなんてことはなく、ホームスタジアムであるカンプノウが使用されるのは年間30日に留まる。FCバルセロナは残る年間330日を補うスタジアムビジネスとしてカンプノウ・エクスペリエンスツアーなるスタジアムツアーを組んでおり、その売り上げは驚くなかれ2700万ユーロ、日本円にして約35億円の売り上げ(2014年)を記録している。

 試合チケットだけでなく、スタジアム体験そのものがコンテンツとして確立されているのが驚きだ。今回のファントークンはスタジアム体験がオンラインコンテンツとしても評価される可能性を示したと言えよう。直接観戦できないからリモート(遠隔)で体験させようとの代替的な考えではなく、体験そのものをリモート化してオンラインコミュニティと融合させるこれまでになかった試みである。コロナ禍のなか、これまでに培ったスタジアムツアーのノウハウがあるからこそ、スタジアムそのものをネットに拡張する新たな試みとして取り入れる事ができたとも言える。

 従来こうしたデジタル通貨と連携したファンサービスは何か景品がもらえるだとか、あまり面白みのないものが多かった。リモート観戦の設備投資がスタジアムに導入され、LEDパネルに出演したり、VIP観戦を楽しんだり、憧れの選手と交流できたりとリアルとオンラインが溶け合うような新たなビジネスが生み出されつつあるのではないか。

関連記事

新着記事

»もっと見る