2022年7月2日(土)

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2020年7月18日

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上林功 (うえばやし・いさお)

追手門学院大学准教授

1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチをおこなう。

都市防疫にも活用できうる共創による取り組み

 スタジアムでの新たなスポーツ体験を生み出すには、ファンとともに考える共創的仕組みも重要である。国内ではすでにコロナ前から、スポーツ庁が進めるスポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)や早稲田大学とNTTデータ経営研究所が共同設立したスポーツテック&ビジネスラボなど多くのスポーツベンチャーを集め、オープンプラットフォームによるビジネス創出が図られている。コロナ禍で取り組みは加速化しており、スポーツテック&ビジネスラボでは、「無観客試合のデジタル観戦体験」や「Withコロナ時代のオンラインフィットネス・リハビリ・健康経営」をテーマにオンラインフォーラムを開催し、盛況となっている。

 こうした取り組みは現在の有観客による直接観戦のみならず、これまでとは全く異なるスポーツの楽しみ方の提案にも繋がりそうだ。先ほど紹介したほかにもNECが展開する共創プラットフォーム「SSMR」では「空間音響MR」と呼ばれるGPSとサラウンド技術を組み合わせた技術を利用したサービス開発がおこなわれている。多くの企業を集めたコンソーシアムを作りながら、開発を進めている。位置情報と立体音響サラウンドを組み合わせることで、イヤホンを通じてまるで目の前のものが実際に音を発しているように感じさせる技術である。

 例えば、目の前の選手の看板が喋りかけてきたり、誰もいないはずのグラウンドでスポーツの試合が行われているようなこれまでのパブリックビューイングをもう一段階進めるような体験を作り出すことも可能だろう。こうした拡張現実(AR)に関して、技術をクローズドな独占的なものにせず、広く技術をオープンにし、興行主やコンテンツホルダーを集めている点は今後期待したい取り組みである。

 こうした技術の進化は、スタジアムでの賑わいや応援に留まらない。有観客の再開にて注目されるのが、スタジアムを利用した公衆衛生対策の深化である。一律に解決しにくい感染症への対策としては、取り組みや対策をオープンにし、ファンとともに検討していく方法が有効ではないかと考えられる。

 Jリーグは、今年度早々にスタジアムへのAIサーマルカメラの導入を決定している。現在、手探りの中で人的サポートによる感染症対策がおこなわれているが、濃厚接触のモニタリングや顧客行動の管理など、AIカメラの活用シーンがあらゆるところで期待できると考えている。現在5000人を対象とした公衆衛生対策となるが、これらはスポーツシーンのみならず、都市防疫のモデルケースとしても捉えることができるだろう。言い方は悪いのかもしれないが、スタジアムをテストケースとして都市全体に利用できるWithコロナ施策も見いだせるのではないかと考えている。

 感染拡大が危惧されている今、必ずしもスポーツ興行の再開が支持されないことは重々承知ではあるが、数千人規模に対して注意を促し、都市環境において感染症対策を試行できるのはスポーツを愛するファンにしかできないことではないかと考えている。ぜひファンとともにコロナを乗り越えるべく知恵を技術を結集したいと考える次第である。

  
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