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2020年7月18日

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上林功 (うえばやし・いさお)

追手門学院大学准教授

1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチをおこなう。

 プロ野球、Jリーグの有観客による興行が再開した。ひとまず最大5000人で、今後段階的に観戦者数は増やしていくという。放映・配信で観る有観客の試合は思いのほか寂しい感じはしない。来場者を制限しているとは言え、一様に座席の割り振りをしていることや、声を出せない分、選手へのアピールを兼ねた目立つコスチュームやグッズが彩りを添えているように思う。

 横断幕やプラカードとあわせて目立つのがチームタオルである。声を出せない現状において、タオルは各スタジアムで売れ行き好調となっていると聞く。阪神タイガースのオンラインショップで販売されている「ジェット風船タオル」は単なるジェット風船の絵が描かれたタオルであるが、販売後、売り上げ1位となるなど、今だからこそ売れるグッズという側面と、これを機会に新たな観戦スタイルにあわせた新たな応援体験を開発しているとの考え方もできそうである。

 一方で、必ずしも試合中継の視聴率は芳しくない。とり立てて悪いというわけではなく、これまでを上回るに至っていない現状にとどまっている。そんな中、Jリーグのヴィッセル神戸が選手とのオンライン交流会などの特典を付けた10万円の無観客試合チケットは完売した。コロナ共生時代のスポーツビジネスにおいて、新たな体験やサービス無しにはファンを集めるに至らない危険性を示唆する内容だと思う。何もしなければ、ジリ貧となる可能性が大きいのだ。

(森田直樹/アフロスポーツ)

声を出さない応援を支える新たな技術

 これまでの応援と言えば、声を出し、旗を振り、メガホンを鳴らす。こうした応援スタイルは、プロ野球やJリーグが長い歴史で培ってきた文化だと言える。コロナ禍での有観客観戦再開に併せた様々な応援スタイルの模索は、文化の進展のみならず、スポーツビジネスの広がりの一助となると期待している。

 例えば、福岡ソフトバンクホークスはその技術力と資金力をいかんなく発揮し、親会社のソフトバンクが開発を進めているロボット「Pepper」や四足型ロボット「spot」を投入し、一大応援団を結成したことが話題をさらった。この試みに大きな期待が寄せられる。と、いうのもこのロボット「Pepper」は今やいろいろなところで案内用ロボットとして活躍している一方で、遠隔臨場体験のインターフェースとしても実験的な利用が行われているのだ。遠隔臨場体験とは、離れた場所からロボットなどを通じて視覚や聴覚、触覚といった五感を伝送して体験できる仕組みのことである。

 「Pepper」は開発者へ広くオープン化されたロボットとして、アイデアコンテストやハッカソンと呼ばれる開発イベントで活用されている。視覚を共有したり、ハプティクスデザインと呼ばれる触覚の共有といった実験的な搭載がおこなわれていたりと、受付だけに留まらないロボットとして一部界隈では有名なのである。

 その中には、「Pepper」を利用して遠く離れた場所の体験を伝送する研究がある。「HUG Project」と名付けられたこのプロジェクトは離れた場所にいる相手に対して、Pepperを介して抱き寄せてハグをするというものがある。寝たきりのおばあさんが孫の結婚式に参加するためVRゴーグルを付け遠隔参加するという提案であるが、実際には目の前にいない孫を抱き寄せようとするおばあさんの所作が臨場感の遠隔伝送の可能性を深く考えさせる。こうしたアイデアを企業から広く集めることに成功している世界で唯一のロボットがPepperなのである。

 今回、スタジアムでの応援に駆り出されたことで、中継などの映像技術だけでなく、旗を振りながら声を届けるといったより体験的なサービスに繋げることも可能だ。ファンとスタジアムをつないでくれる役割としてより広いスポーツとの連携を期待したい。

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