Wedge REPORT

2020年4月20日

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 憂鬱で苦しい日々が続く。新型コロナウイルスの蔓延によって世界の生活スタイルは大きく一変してしまった。日本も緊急事態宣言が発令され、その範囲は当初の7都府県から全国へ拡大。政府や行政による自粛要請が感染拡大に歯止めをかけることを期待したいのは山々だが、容易ならざる現状のようだ。有識者たちからはウイルスとの戦いは長期戦となることが指摘されており、世界のスポーツ界も理想論ばかり唱えるのではなく厳しい現実を受け入れなければいけない時が近づきつつある。

(BalkansCat/gettyimages)

 ここ最近、すっかり大半の人たちの間の記憶から消されつつある東京五輪・パラリンピックは2021年夏に延期が決まっている。1年先送りにしただけで、本当に開催できるのか。英BBC放送は英エディンバラ大学で国際公衆衛生の権威として知られるデヴィ・スリダール教授の話として、新型コロナウイルスのワクチンが開発されなければ来年夏の東京五輪開催は「あまりに非現実的」であることを報じた。

 この報道を打ち消すかのごとく、ロイターは別の公衆衛生と感染拡大防止の専門家が来年の東京五輪開催について「現実的ではないと言うのは時期尚早」と示す反論を掲載。まだ準備期間として15カ月あるから「実現できないというのは早過ぎる」という見解だが、個人的には楽観論にしか思えない。未知のウイルスによるパンデミックにさいなまれる世界の苦境と冷静に照らし合わせれば、開催まで残り1年半を切っているリミットでは逆に足りないはずだ。BBCの報道は的を射ている。

 東京五輪への参加を目指すアスリートたちの気持ちを考えれば、大会開催に異を唱えることは心苦しいところもある。筆者だって曲がりなりにもスポーツライターを職業としている立場の人間だ。スポーツ界を応援しているし、その活性化のためにも東京五輪は願わくは開催してほしい。しかしながら、そこにはどこかの国の首相の言葉ではないが「完全な形で」という条件が付く。

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は「有事」だ。いや「戦争」と評したほうがいいのかもしれない。再び平穏な日々を取り戻すため、誰もが今まで当たり前だった生活を犠牲にしなければならなくなった。日本でも経済や産業に急ブレーキがかかり、教育機関もストップ。

 これまで全ての基盤であり、根幹だったフェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションそのものが断たれてしまった。そういう閉鎖的な世の中で人々は見えないウイルスとの戦いを強いられ、今日も多くの大切な命が失われている。だからこそとにかく今は感染拡大を止め、ウイルスの根絶に心血を注がなければいけないはずだ。アスリートたちも例外ではなく、この状況下において特別扱いなどない。

 もっと正直に言えば東京五輪の来夏開催は、その足かせになってしまっている。東京五輪の1年延期が決まった途端、東京を筆頭に全国の感染者数が跳ね上がった〝疑惑〟について米CBSや独ZDFなど海外の有力メディアから「五輪開催のために数をコントロールしていたのではないか」とツッコミを入れられたこともあった。

 もちろん真相は分からない。ただ少なくとも、もともと今夏開催予定だった東京五輪に余りにも前のめりになり過ぎていたことが、日本のウイルス対策への初動と本格的な取り組みを鈍らせていたと疑念を抱く人たちはかなりの数でいるだろう。

 そういう背景もあって多くの国民から開催を望まれていないのはまず確かだ。今、仮に全国調査でアンケートをとったら「再延期」どころか「中止」を臨む声が圧倒的多数を占めることは容易に想像がつく。東京五輪の開催は今すぐ中止し、新型コロナウイルスの撲滅に国家を挙げて集中すべき――。これは国民の総意に近い願いであろうと考える。

 つい先日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会に属する人物と連絡を取る機会があった。大会組織委員会の面々も現在は緊急事態宣言の発令によって幹部クラスを除いてほぼ大半がリモートワークとなっており、事実上「活動休止に近い状態」となっているという。この文中でも列挙しながら述べてきたコロナ禍による世の流れと空気感について率直にぶつけてみると「それについてはこちらも認識している」と打ち明け、次のように続けた。

 「世界がコロナショックにあえぐ現状をみれば、1年半を切った来夏の開催は極めて厳しいと言わざるを得ないだろう。それを覆せる材料を我々も残念ながら何ひとつ見つけることができていない。これが今の偽らざる気持ちだ」

 さらに1年先延ばしにしたものの実際のところ裏側ではほとんど何もまとまっていないズサンな内情について、こうも暴露している。

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