2024年12月9日(月)

Wedge REPORT

2020年4月13日

 強い怒りをにじませていた。野球評論家・張本勲氏が12日放送のTBS系「サンデーモーニング」に生出演。名物コーナー「週刊・御意見番」で沖縄県高校野球連盟に苦言を呈した。

(Kuzmalo/gettyimages)

 高校野球の春季沖縄県大会は3月25日に無観客で開幕したものの、準々決勝後の6日に打ち切り。市中感染が広がるなど開幕時の3月よりも県内での新型コロナウイルスの蔓延状況が悪化しているとして大会主催者側の沖縄高野連は準決勝と決勝の中止を決めた格好だが、張本氏は同番組内でそのトピックスのVTR映像が終わるや否や「やらないほうがよかったよね。子どもに危険を冒すようなことをしちゃ、ダメじゃないですか」と顔をしかめた。

 奇しくも3月25日は東京都の小池百合子都知事が都民に不要不急の外出自粛を呼びかけ、これに近隣各県も呼応するきっかけとなった日だ。まさに日本中がコロナ禍に危機感を強め始めたタイミングで沖縄高野連は県内での感染が広まっていないことなどを理由としてこじつけ、各方面から「どう考えてもリスクがあり過ぎる」との批判をヨソに大会開催を強行したのである。前出のように張本氏が「やらないほうがよかった」と眉をひそめたのも至極当然であろう。

 そして徐々にヒートアップ。「どこから(ウイルスが)迷い込んでくるか分からんから。(試合を)やって何しますか。落ち着いてからなんぼでもできますから。危険な行為は、団体競技はやらないほうがいいよ。自制してくれと言っているじゃないですか。(打ち切りは)当然ですよ、これは」とも言い切った。

 司会者の関口宏氏が「だけども、何だかかわいそうだなって気もしますし」と言葉をはさむと「いや、それは皆がかわいそうですよ。だけどね、こういう時だからこそ、やるんだという屁理屈を言うやつがおるから。で、もし感染した場合、誰が責任をとるんですか。命をとられるんだから。よく考えてもらいたいですよ」と大会主催者側に厳しい言葉を向けた。

 張本氏の意見には賛同できないことも少なくない。それでも、この指摘は非常に的を射ている。危惧すべきことに日本のスポーツ界では運営者側の中に新型コロナウイルスの恐ろしさを未だ軽視している人たちが割と多くいるのも事実だ。そういうKYな流れに球界の大物OBがクギを刺した意味合いはとても大きい。

 取材をしていてよく痛感させられるが、特にプロアマ問わず日本の野球とサッカー界の運営サイドにはナゼか「自分たちは特別だから大丈夫」などという自意識過剰な考えを持つ昭和風情の古株が全国に散らばっている傾向がみられる。自分さえ良ければいいという〝危険な勘違い〟を抱いている関係者がワンサカいるのだ。

 実際、コロナ禍にさいなまれているにもかかわらず春季大会を強行させた沖縄高野連同様にひっそりと他の地方で大学野球のリーグ戦が無謀にも行われていた。中国六大学リーグだ。主催者側の中国地区大学野球連盟は何と4月4日に岡山県の倉敷マスカットスタジアムで170人の観客を集め、リーグ戦を開幕。翌5日にも無観客どころかスタンドに人を集めて試合開催を強行していたのだから、開いた口がふさがらない。

 おそらく4日の観客数を見て「たったの170人」と思うだろうが、されど170人だ。いくら屋外で少人数だからと言っても、100人以上の観客を集めれば入退場時にスタンドの出入口付近はまず間違いなくソーシャルディスタンス(他者との一定の距離)を保てずに混み合う。

 加えて「中国各県の感染者が少ないから」という理由で同リーグ開幕に踏み切った主催者側の決断も理解不能だ。開幕前日の3日の時点で調べてみると開幕戦の会場となる倉敷マスカットスタジアムを有する岡山県内の感染者数は8人。正しい目を持っているならば、この時点で岡山県だけでも「少ない」とは言えないはずだ。つじつまはまるで合わない。

 結局、6日に山口県の周南市などで新型コロナウイルスの感染者が確認され、11、12日に第2週の2試合を行う予定だった周南市野球場の使用ができなくなったことで同連盟は緊急理事会を招集。同リーグの再開を6月以降に延期せざるを得なくなった。この連盟の幹部たちからは「選手たちに何とか野球の試合をやらせてあげたかった」との声も聞こえてきているが、とても額面通りには受け取れない。

 筆者はリーグ開始前の時点で同リーグに属する複数の大学野球部員たちから「ほとんどの選手がそう思っているはずですが、怖くて試合どころではありません」という本音を聞いている。もし気付かないうちに自分が感染してしまったら対戦相手はもちろん、チームメートや同じ部に関わる仲間でクラスター(感染者集団)を発生させ、学生や大学関係者、世の中の人たちにもウイルスを広げてしまう。それでも主催者側が決めたことには従うしかない――。そういう心の葛藤と感染リスクの恐怖に怯えながら、同リーグの部員たちはグラウンドに立たされていたのだ。つまりは危険なリスクを負わされていた選手たちも、また被害者である。

 同リーグが開幕を強行した4、5日から、まだ2週間経っていない。開幕2試合が行われた岡山県を含め中国地方の感染者はさらなる増加傾向にあり、危険な状況に近づきつつある。新型コロナウイルスの潜伏期間を考慮すると、感染リスクが大きいとされている試合を強行してしまった選手やチームスタッフ、当日来場した観客や大会関係者からの無症状拡散も否定できないだけに不安は残ったままだ。

 ちなみに先日はサッカー界でもあわや〝暴挙〟が強行されるところだった。天皇杯岩手県予選準決勝の富士大―日本製鉄釜石戦が12日に盛岡つなぎ多目的運動場で、さらに決勝の準決勝勝者―J3いわてグルージャ盛岡戦が19日にいわぎんスタジアムでそれぞれ行われる予定だった。岩手県内に感染者が出ていないこともあり、岩手県サッカー協会は試合強行に踏み切るつもりだったが、このニュースが一部メディアで報じられると中止を求める抗議が各方面から殺到。当然のように無期限延期を強いられるハメになった。


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