2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2020年8月15日

 第三は需要である。供給力がないのに、国民は飢えて、日常生活物資にも事欠いているから、需要はいくらでもある。インフレになるのは当然だ。

 翻って現在はどうか。財政赤字の主な原因は社会保障支出の増加である。基本的には、人々に年金としてお金を配っている。配られたお金は消費されているか、貯蓄されている。貯蓄されたものは日本か海外で投資されている。供給力は破壊されていない。貿易は自由である。国民は飢えているわけではないので、今、消費しなければ死んでしまうわけではない。消費するか、貯蓄するかの選択ができる。

政府は何をすべきか

 財政赤字がいくら増えても、人々は貯蓄し、銀行には預金が集まる。銀行は貸出先がないので国債を買っている。結果として低金利は続く。物価も上がらない。この均衡はなかなか破られない。均衡を破るためには、人々が銀行預金と国債以上に良いものがあると認識することが必要だ。

 消費しても良いのだが、国民は飢えてもいないし、日常生活物資に事欠いているわけでもないのだから、消費が爆発的に伸びるわけではない。貯蓄の使い道として、内外の社債・株式・不動産、外国国債、あるいは美術品、宝飾品などはある。しかし、ITバブルの崩壊、リーマンショック、コロナショックが次々と襲う中では資産価格の変動は激しい。海外の金利も低下してしまって、為替変動リスクを考えると海外債券を買う気になれない。美術品、宝飾品で何兆円も価値保蔵できるものを探すのは難しい。日本政府の債務残高は1200兆円なのだから、100兆円近い価値保蔵手段を見いだせなければ、この均衡から抜け出せない。

 どうしたら良いのだろうか。国民がもっと消費するか、企業がもっと良い投資先を見つけるかしかない。コロナ自粛に疲れた国民はもっと消費したいと思っているだろうが、突然の所得消失に驚いた国民はもっと貯蓄したいと思うようになっただろう。企業も、コロナショックを経験して、やはり現預金をため込むことが必要だと認識しただろう。全体として支出は増えそうにない。

 コロナショック時の政府の対応は、所得を補填(ほてん)することだった。所得の補填は国民も企業も安心させる。政府がもっと国債を発行して支出するしかない。しかし、政府が財政的にこれ以上補填できないと思われれば、国民は心配になる。結果、国民は貯蓄し、銀行を通じて国債の購入になっている。皮肉なことである。しかし、だから財政拡大が可能になる。また、そうしなければ経済はさらに悪化するだろう。

 企業も国民も安心するためには、政府がこの危機を乗り越える途(みち)を示すことである。それは全国民の接触禁止、すなわち経済活動の停止ではなく、感染発生のリスクと感染コストが大きいところ、つまり医療機関や高齢者施設、夜の街を対象として集中的に感染防止策を講じることで、経済活動を安全に再開できるのを示すことである。

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Column   地方創生狙った「定員厳格化」 皮肉にも中小私大の〝慈雨〟に

  
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◆Wedge2020年8月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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