オトナの教養 週末の一冊

2020年7月23日

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感染症拡大という非常時にも〝活躍〟

 新たな取り組みを進めてきた「ネクストファーマーズ」たちは総じて「サバイバル能力が高く、常に考えて工夫を凝らしている。一つのやり方に依存していない」と川内氏は評する。その様子が新型コロナ禍でも発揮されているという。

 5500人の生産者と7500軒のレストランをつなげるプラットフォーム「SEND」の創業者で、農業界に新たなインフラを構築させたと本著で紹介されている元金融マンの菊池紳氏もその一人。生産者とレストランをつなぐということは、感染拡大で軒並み被害を受けた領域だ。「感染が拡大した時に、18人の生産者から菊池さんへ厳しい状況であるとの連絡があったそうです。菊池さんは『胃袋の数は変わっていない』と考え、すべての野菜を仕入れました」。川内氏は解説する。仕入れた野菜はオンライン上で販売し、知り合いのカフェを借りて取りに来てもらった。ステイホームで質の良い野菜を買いたいという意識の高まりもあり、人気を呼んだ。

 需要の高まりを感じた菊池氏は渋谷で週1回、野菜の販売を始めた。面白いのは、18種類や30種類といった野菜をセット販売しているところだ。消費者が選べるのは「1人前」「2人前」といった量だけ。「菊池さんがセレクトした野菜だから、という信頼で多くの人が購入するのでは」と川内氏は語る。野菜の販売はこれまでに7回開催され、のべ38人の生産者が出品し、のべ200家族以上が購入していったという。「生産者としては、飲食店向けのように形や色つやをそこまで強く意識せずに飲食店へ卸している値段と同じ価格で販売でき、消費者にとってはスーパーよりも安い値段で購入できる。農協や卸売市場を通していないので、採れたてで新鮮な野菜が各家庭で楽しめる」と意義を語る。

 星付きレストランのシェフたちがこぞって注文するハーブ農園を運営する梶谷ユズル氏も感染拡大直後から動き出していた。さまざまな味や香りがする100種類ものハーブを生産し、150軒ものレストランと取り引きし、ウェイティングリストは300軒を超える農園でも、コロナ禍で売り上げが3分の1ほどに減った。

 ここで、すでに開設していたオンラインショップで、一般向けの販売に力を注ぐ。高級レストランといっても、家賃や消費税といった固定費で大きな利益を上げている訳ではなく、それだけでは先が伸びないと、今年初めからオンラインショップを動かせていた。「従業員らからは『苦情がきたら大変』『なぜ新しいことを始める必要があるのか』といった反対の声もあったようです。けど、『機関銃を打ちまくったら、何かに当たるだろう。とにかく動いてみるしかない』と考えたそうです」と川内氏は舞台裏を語る。

 新型コロナの感染拡大が起きた3月ごろから注文が入り始めたようだが、従業員らが心配していた「この花は食べられるのか」などといった問い合わせが案の定多数来た。梶谷氏は、これに対応するため、YouTube(ユーチューブ)で自社のハーブの調理法や保存法の発信を始める。動画には、コロナの影響で時間ができた飲食店の料理人に出てもらった。オンラインショップでの販売は、ハーブにとどまらず、ハーブの種と鉢、土をセットにした「ハーブ栽培セット」も並べた。ステイホームで家庭菜園が流行りつつある状況を受けてのことで、「買ってくれた人はファンになってくれる」と考えたのだ。

 ユーチューブをも活用したオンラインショップの売り上げはどんどん伸長し、落ち込んだレストラン向けの売り上げをまかなったという。ハーブ栽培セットにいたっては、大手量販店から大型注文の話もきているとのことだ。

 新型コロナという未知のウイルスと新たな生活業態で、日本の農家の多くは行き詰ってしまった。その中でネクストファーマーズたちは「思いついたらすぐに行動していました」と川内氏は語る。「多くの人がチャレンジすることで可能性は拓けると考えています。そうした意味で農業は大きなチャンスがある業界だと思います。なんて言ったって、日本人はグルメで、美味しい物には貪欲ですから」。こうした危機であるからこそ、「打つ手は無限」だと考えたい。

  
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