2024年12月26日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月6日

 7月16日、ウォールストリート・ジャーナル紙は、縮小案の詳細は明らかでないものの、国防省が在韓米軍の削減を含めた選択肢を大統領府に提示した、と報じた。同紙は、先に在独米軍削減をスクープ報道しており、その後、トランプは削減を正式に発表している。ついに国防省も大統領府の圧力に屈し、選択肢を提出したということであろう。北朝鮮から非核化など基本的な対価を明確に得ない状況で、一方的に在韓米軍を縮小することは危険である。さらに、在韓米軍の削減は、中国を喜ばせる可能性が高い。

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 しかし、直ちに削減を決定するのは難しいのではないか。昨秋米議会は2020年国防権限法案採択に際し、在韓米軍を削減する場合、米国や同盟国の国益を損ねないことを議会に説明し、日韓両国と事前に協議することを義務付けている。トランプ政権の狙いには、11月の選挙目当てや、膠着に陥っている米韓費用負担交渉に関する対韓圧力があるものと思われる。米メディアは11月選挙の見通しにつき急速にトランプに不利になっていると報道しており、トランプの焦りは高まっているものと思われる。駐留米軍のローテーション化による削減など衝動的な決定発表は完全には排除できず、注視する必要がある。

 今の在韓米軍撤収論の問題点を挙げれば、次の通り。

(1)戦略が良く分からない。前方展開の利点をよく考えるべきだ。安全保障を国内政治上の動機に利用すべきではない。

(2)北の非核化等基本的な脅威削減措置との交換なくして一方的に削減すべき戦略上の理由はない。在韓米軍は当該地域の安全保障にとり重要な抑止力であり、また将来の交渉の最重要の切り札にもなり得る事項である。トランプ政権の米韓軍事合同演習中止、シリア撤収やアフガニスタン撤収などを見るといずれも相手側から十分な対価を取ったとは言い難い。

(3)削減しても大きな経費削減にはならない(社説指摘の通り)。本国帰還後解散でもしない限り、部隊維持の経費は掛かり、また有事展開の際は一層大きなコストがかかる。現地訓練にも追加コストがかかるだろう。接受国経費分担のある前方展開は米にとっても有利なことだ。

(4)勿論情勢の変化や他地域での必要性などを勘案して、時宜に応じた軍の再配備が必要なことは当然である。

(5)同盟政治を大事にすべきである。日本、韓国と協議が行われているようには思えず、同盟管理上も問題である。

(6)米韓経費負担交渉の圧迫手段ということであれば、同盟国としてお互いに一層現実的な交渉に努力することが本来の姿ではないか。

 韓国国防部は「両国間で議論していない」との従来の立場を繰り返している。韓国メディアは「また在韓米軍縮小論か」といった、今や慣れた反応を示している。一部専門家は「在韓米軍の縮小は遠からず避けられない現実になるだろう」との見方を述べている。他方、およそ親米的とは言い難い与党の一部において米軍削減に対する抵抗感が下がっているとしても驚きはない。なお、米韓負担交渉については、韓国が昨年(約9.2億ドル)比で13%引き上げ、5年協定とする案を提案、これに対して米国が2020年の分担金13億ドル、1年協定とする案を最終提案として出したまま、膠着している。その間、交渉不調のために米軍は韓国人従業員を一時解雇、国内で問題化し、困った韓国が当面国内的に人件費をカバーすることで問題は一応抑えられている。

 なお、最近、トランプ大統領は今年2月の共和党州知事協会の夕食会で「文在寅大統領の相手をするのは本当に好きじゃない。韓国人はひどい人々だ」と話したと米国で伝えられた。これは韓国でも報道され、在米の韓国系団体は遺憾声明を出している。

  
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