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2020年9月3日

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佐藤一郎 (さとう・いちろう)

国立情報学研究所 情報社会相関研究系教授

専門は情報学。1991年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒。93年慶應義塾大学理工学研究科大学院計算機科学専攻前期博士課程修了。96年同後期博士課程修了、博士(工学)。お茶の水女子大学理学部情報科学科助教授等を経て2006年4月より現職。
 

 7月に閣議決定された「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」では、デジタル・ガバメントの構築を「一丁目一番地の最優先政策課題」と位置付け、行政の電子化を重点におくことを宣言した。しかし、政府のIT戦略で行政の電子化を重点に設定するのは、これがはじめてではない。

行政の電子化が進んでいないことによって、新型コロナウイルス対策の特別定額給付金を迅速に給付することすらできないことが浮き彫りとなった (JIJI)

 例えば2000年、政府はe-Japan戦略を策定し、「申請手続きの電子化」を重点項目にしていた。06年に打ち出したIT新改革戦略では「世界一便利で効率的な電子行政」として、10年までに様々な行政手続きのワンストップ(一度の手続きで多様なサービスが受けられる環境)の実現が目標に掲げられた。

 13年に閣議決定された世界最先端IT国家創造宣言ではまたしても公共サービスがワンストップで享受できるIT利活用社会を20年までに実現することが目標に設定された。

 しかし、新型コロナ対策で行われた国民1人あたり10万円の特別定額給付金の支給におけるトラブルをみると、ワンストップどころか、e-Japan戦略の目標だった単純な申請手続きですら、電子化が進んでいないことが浮き彫りになった。

 定額給付金の申請では郵送に加えて、オンライン申請も受け付けたが、申請内容の審査作業を人の目で行う必要があり、時間がかかるなどの業務上の問題が露呈し、100以上の自治体がオンラインでの受け付けを停止したと報道された。

グランドデザインとは何か

 これまで何度掲げてきても政府のIT戦略がうまくいかなかった理由の一つは、本来、IT化は、行政機関の業務変革や組織改革の手段にすぎないにもかかわらず、どう変えるのかというグランドデザインをトップが示さなかったことにある。一方、現場は業務を変えることには抵抗しがちであり、手段であったIT化が目的化することを繰り返してきた。

 では、グランドデザインとは何か。例えば自治体であれば「予算執行状況からゴミ収集状況まで、自治体の現状をリアルタイムに可視化し、市民と行政課題を共有して市民参加型行政へと変革する」といったことも立派なグランドデザインとなり得るだろう。その上でそれらの実現に向けて必要な組織改革や業務変革を行う際の手段としてデジタル技術を用いるべきなのだ。

 これはデジタル・ガバメントだけにとどまらない。19年末から進められているGIGAスクール構想(学校教育のIT化)でも「ICT環境の整備は手段であり目的ではない」としながらも、現状では「児童生徒1人1台コンピュータ」の実現という手段が前面に出てしまっている。

 企業においても同様だ。昨今、流行のキーワードであるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、ITを利用した業務変革や組織改革に他ならない。業務や組織を変えず、ITだけ取り入れるのは、単なるデジタルフォーメーションであり、肝心の「トランス(変革)」が抜け落ちている。

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