新秩序目論むクシュナー氏とアブダビ皇太子
クシュナー氏は今年1月、3年かけてトランプ政権の新中東和平案をまとめた。「ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の3割をイスラエルに併合する」というイスラエル寄りの案はパレスチナ自治政府の強い反発を浴び、和平交渉は頓挫したままだ。
この新中東和平案は単にイスラエルとパレスチナ自治政府間の合意を目指したものではない。イラン封じ込めを念頭に、中東の新秩序構築を目論んだ「戦略計画」だ。その骨子は①イスラエルとパレスチナ自治政府の和平交渉②和平交渉の枠組みをアラブ諸国が支持③アラブ諸国とイスラエルの関係正常化④イラン包囲網の強化―だろう。
大事な点は、この過程でトランプ大統領の外交的成果を華々しくアピールし、再選の糧とすることだった。しかし、和平提案はパレスチナ側が一蹴したばかりか、根回し不足でアラブ側の支持取り付けにも失敗した。クシュナー氏はアラブの指導者がパレスチナ自治政府の指導者らに圧力を掛け、パレスチナ側を和平案に引き込みたかったが、うまくいっていない。
そうした中で今回、UAEがF35など最新兵器の獲得を条件に、クシュナー氏の提案に乗ったということだろう。その原動力となったのはクシュナー氏と、UAEの「影の支配者」であるアブダビ首長国のムハンマド皇太子(59)との親しい関係だ。サウジアラビアの独裁者ムハンマド・サルマン皇太子に助言する存在としても知られる。ムハンマド皇太子はイスラエルとの関係改善の先陣を切ったが、イランとの関係が険悪化するリスクも背負った。
トランプ政権としては、他のアラブ諸国がUAEに続くことを期待。ポンペオ国務長官やクシュナー氏が相次いで中東を歴訪する予定で、UAEに同調するよう各国を説得すると見られている。イスラエルとの関係改善を検討しているのはバーレーン、オマーン、モロッコ、そして大国のサウジアラビアなどだ。