中東を読み解く

2020年8月11日

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爆破現場に書かれた政府批判の描き込み( REUTERS/AFLO)

 レバノンのディアブ内閣が8月10日、総辞職した。首都ベイルートでは、大規模爆発事件の後、反政府抗議行動が激化し、その混乱の責任を取った形だ。しかし、本当の理由はディアブ首相が事件の真相解明に真剣に取り組み始めたことから、同国を食いものにしてきた支配層が、利権の実態など“不都合な真実”が明るみに出るのを恐れ、圧力を掛けたためと見られている。

繰り返される“政治ゲーム”

 爆発事件の被害は想像を超える規模だった。死者・行方不明者200人、負傷者6000人、家屋の損壊などを被った市民は30万人に達した。損害額は100億ドルから150億ドル(1兆5800億円)にも上る。旧宗主国フランスのマクロン大統領の呼び掛けで、レバノン支援の国際会議が9日開催され、約2億5000万ユーロ(312億円)の援助が決まったが、焼け石に水の状況だ。

 政府や政治支配層の腐敗が爆発事件を招いたとする市民らの抗議行動は爆発直後から広まり、一部過激化したデモ隊が国会や財務省、銀行などに押し掛け、治安部隊と衝突、混乱は収まる気配を見せていない。こうした中、電気が1日数時間しか通じないといった市民生活の劣悪な状況はさらに深刻化している。

 政府は爆発の原因になった大量の硝酸アンモニウムの管理に責任があった港湾当局者ら19人を自宅軟禁にして調べている。しかし、閣僚や政治支配層は互いに責任をなすりつけ、非難の応酬に終始するばかりだ。港湾を管轄するナジャール公共事業・運輸相が「対応をするよう求めていたが、何もしなかった」と司法当局を批判、ハリリ前首相も「責任は現政権にある」と、火の粉が降り掛かるのを避けるのに躍起だ。

 こうした政府の機能不全は危機のたびに露呈されてきたが、全く改善の兆しはない。それどころか悪化の一途をたどっていると言っていいだろう。「息詰まると、政権を放り出して混乱が続くのはこの国の見慣れた“政治ゲーム”。八方ふさがりのディアブ政権がこうなるのは早くから分かっていたことだ」(ベイルート筋)という。

 しかし、今回のケースはちょっと異なると同筋は指摘する。ディアブ首相の辞任表明のテレビ演説にもそのことが如実に示されているというのだ。地元メディアなどによると、首相は爆発という「犯罪」が同国特有の腐敗の結果だ、と政治支配層を非難し、次のように述べた。

 「腐敗構造は国家よりも巨大で、国家はそのシステムによって縛られ、それに立ち向かったり、排除したりすることは不可能だ」

 「私の改革の取り組みは政府内に巣食う黒幕たちによって、すべて阻まれた。こうしたことはレバノン国民にとって本当の悲劇だ」

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