WEDGE REPORT

2020年8月2日

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 トランプ米大統領が郵便投票の欠陥を理由に11月の大統領選挙の延期に言及したのに対し、野党民主党は無論のこと、与党共和党や支持基盤の保守派からも反対の声が噴出、総スカン状態となった。しかし、大統領は再選に不利と見る郵便投票を阻止するため、郵便システムの信頼性を低下させる取り組みを強めており、郵政をめぐる対立が大統領選の大きな焦点となってきた。

1日、ゴルフを終えてホワイトハウスに戻ったトランプ大統領(AP/AFLO)

「選挙結果の確定に数年もかかる」と釈明

 米政界を揺さぶった今回の騒動のきっかけはトランプ大統領が7月30日に発信したツイート。大統領選で郵便投票が広範に導入されれば、「歴史上、最も不正確で詐欺的な選挙になるだろう。米国にとって大変困った事態となる。国民が適切、確実、安全に投票できるまで延期すべきだ」と述べ、郵便投票に反対し、コロナウイルス拡大が収束するまで選挙日程を遅らせるよう提案した。

 大統領が郵便投票に反対するのには理由がある。支持率が対立候補の民主党のバイデン前副大統領に大きく後れを取っているのに加え、郵便投票で投票率が上がれば、自らに不利に傾くと考えているからだ。実際、最近の支持率(7月19日ワシントン・ポスト調査)はバイデン氏55%に対し、トランプ氏は40%と15ポイントも下回った。3月は2ポイント差、5月は10ポイント差だったものが日々拡大しているというのが実態だ。

 とりわけ、激戦州のミシガン、ペンシルベニア、オハイオ、アリゾナ、テキサス、フロリダの6州で、トランプ氏が辛うじて優勢なのはオハイオ州だけ。激戦州を1つでも落とせば、再選が危ぶまれるとされる中、この状況は危機的と言えよう。今回の選挙はいわばトランプ氏の信任投票だが、有権者の間で「バイデンの当選というより、トランプの再選を阻止する」という意識が広まっていることが痛い。

 しかし、大統領の延期提案には、「敗北するのを知っているから恐いのだ」(ハリス上院議員)などと民主党から非難が相次いだ他、共和党やトランプ支持者からも反発する声が多く上がった。共和党の上院トップ、マコネル院内総務は「南北戦争や大恐慌の時でさえ日程通り選挙は実施された。今度も11月3日に行われる」と一蹴した。「大統領はパニックに陥っている」(元マサチューセッツ州知事)という声もある。

 驚いたことに、ニューヨーク・タイムズによると、トランプ大統領を支えてきた著名な保守派団体「フェデラリスト・ソサイアティ」創設者のカラブリーズ氏でさえ、「このアイディアはファシスト的であり、大統領弾劾の根拠になる」とツイートした。トランプ陣営の選対スポークスマンも「大統領は民主党が主張する郵便投票に伴う混乱に疑問を提起しただけ」と火消しに躍起だ。

 当の大統領はこうした批判の高まりに30日の記者会見で、「選挙を延期させたいのではなく、郵便投票の不正が嫌なのだ」と釈明する一方「(郵便投票の)結果が確定するまでに数カ月ないしは数年かかることになりかねない。選挙自体が意味をなさなくなる」と選挙結果を尊重しないとも受け取れる発言を行った。

 アナリストの一部は延期提案について、選挙に負けた場合、ホワイトハウスに居座り続けるための布石を打ったのでは、との見方をしている。またツイートが「米成長率が最悪になった」との商務省発表の直後に行われていることから、頼みの経済復興が難しくなったために焦ったのではないかと見る向きもある。

南北戦争や第2次世界大戦で検討

 トランプ大統領が選挙に負ける状況になれば、コロナウイルスの感染拡大を口実に選挙日程を遅らせたり、選挙結果を受け入れずにホワイトハウスに居座る懸念があることは対立候補のバイデン氏が早くから警告していたことだ。同氏は4月ごろからその可能性に言及、「トランプ氏が選挙を盗み取ろうとするだろう」と指摘、居座った場合は軍が付き添って送り出すとまで語っていた。

 歴代の大統領でこれまで、トランプ氏のように大統領選挙の日程を変更しようと試みた大統領はいない。ワシントン・ポストによると、過去に日程の変更が取り沙汰されたケースは3例ある。1度目は1864年の南北戦争当時に検討された。しかし、リンカーン大統領は“南部の反乱”によって選挙を延期するのは自分たちの制度の敗北を意味する、として拒否した。

 2度目は1942年の第2次大戦中のルーズベルト大統領時代だ。この時もルーズベルト大統領はファシストと戦争している時に、「選挙日程を変更するのは自分たちがファシストに成り下がることだ」とやはり拒否した。3度目はブッシュ政権当時の2004年、米国が9・11のようなテロ攻撃を受けた場合に日程を変更するかが議論されたという。

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