オノ・ヨーコの作品が正面玄関前に
正面玄関を出て振り返ると、現在のニューヨークを象徴するメッセージが掲げられていた。左にDream 右にTogetherと白地に黒いレタリングで書かれた巨大ポスターはオノ・ヨーコ氏の作品である。当初、彼女の個展が中にあるのかと思ったのは筆者の勘違いで、この巨大サインそのものが彼女の作品なのだった。
この正面玄関の壁が作品展示に使用されるのはメトロポリタン美術館の歴史を通して初めてのことという。「一緒に夢をみよう」という意味だが、ここでいうDreamとは、実現不可能なDreamではなく、「未来への希望を持つ」という前向きなニュアンスであるに違いない。
パンデミックで人々の心が萎れていた矢先、警察官による黒人男性への暴行事件に発端してBLM(Black Lives Matter)運動が全世界に広がった。だが一部の破壊行為があったことを理由に今度は連邦警備隊らが無抵抗な市民への暴力行為を繰り返すという負の連鎖をよび、現在のアメリカ社会は大混乱状態にある。
トランプ政権は力で押さえつけようとするのみで、国民に対話を求めることも、心の痛みを抱えた国民に理解と和解を促すメッセージを発したことも、一度もない。
そんな中でこの「Dream Together」は、生涯を通して夫のジョン・レノンと共に反戦、非暴力主義を訴えてきたオノ・ヨーコ氏からの、パワフルなメッセージだ。
メトロポリタン美術館は年間7百万人が訪れ、その70%が観光客と言われている。この美術館に普段の賑わいが戻るのは、まだもう少し先のことになりそうだ。
ニューヨークに来られない美術愛好家のために、現在ホームページhttps://www.metmuseum.org/に行くと、オンラインで主な作品を鑑賞することができる。日本語の選択も出ているので、美術の好きな読者にはぜひお勧めしたい。
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