From NY

2020年4月15日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

 ある昼下がり、マンハッタンのセントラルパークに近い超高級ホテルの前を通りかかると、入り口付近にパパラッチらしき一群が待機していた。誰が来るのだろうと野次馬根性で立ち止まると、数分後黒いリムジンが止まり、中から大きなサングラスをした黒いパンツスーツの女性が登場。機嫌よさそうにカメラマンたちに笑顔で手を振り、中に消えていった。

「あれ誰?」

 ドアマンにそっと聞くと、「ケイト・ウインスレットだよ」と耳打ちしてくれた。映画「タイタニック」が大ヒットした数年後のことである。

 世界各国にフランチャイズがある「フォーシーズンズホテル」は、マンハッタンの高級ホテルの中でも、セレブリティ・ウオッチングの名所だった。ロビーに行くと、映画俳優などの有名人がゴロゴロいる、と言っても過言ではない。日本のある大物アーティストも定宿にしていると聞いた。

 この光景は、すでに過去の記憶になった。このフォーシーズンズホテルが、現在では新型コロナウィールスの治療に従事する、医療関係者たちの宿泊施設となっているのだ。

医療関係者の宿泊施設となっているフォーシーズンズホテル(筆者撮影)

鶴の一声で決まった部屋の無料提供

 3月25日、ニューヨーク州のクオモ知事が「57丁目のフォーシーズンズホテルが、COVID19の医療に従事する医師、看護師および医療関係者たちに、無料で宿泊施設を提供してくれることになりました。ありがとう、フォーシーズンズ。これに続いて、他のホテルも部屋を提供してくれることを願っています」とツイートした。

 ニューヨーク・フォーシーズンズホテルのオーナー兼CEO、タイ・ワーナー会長の鶴の一声で決定したのだという。NBCで発表されたワーナー会長のメッセージは以下の通りだ。

 「ニューヨークの医療従者たちの多くは、自宅から長時間かけて通勤し、1日18時間働いています。彼らには勤務先近くでゆっくり休める場所が必要だった。クオモ知事が会見でそう訴えかけるのを聞いて、我々はできる限りの協力をするしかない、と決意しました」

 フォーシーズンズは普段は最低一泊1200ドル(およそ13万円)から、という超高級ホテル。3月20日から新コロナウィールスの影響で閉鎖していたこの施設を、ワーナー会長は医療関係者に無料提供するという太っ腹を見せた。フォーシーズンズに続いて何軒かのホテルが名乗りを上げ、4月10日にはマリオットホテルグループも医療関係者たちの受け入れを決定したが、いずれも一泊100ドルから200ドル程度の特別価格での提供。無料なのはフォーシーズンズのみだ。

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