2024年11月22日(金)

ルポ・被災農家の「いま」

2012年7月18日

 布施さんは、専門機関に放射性物質測定を委託し、自分たちの野菜や畑の土、たい肥などの数値を確かめることに専念した。これをしなければ、たとえ茨城県全域の野菜が暫定規制値を下回り、出荷規制解除になっても、顧客に「大丈夫なの?」と聞かれたとき、根拠を示すことができないからだ。

 「畑の土やたい肥など、あらゆる物質の測定を行っていきました。結果としては、すべて暫定規制値を下回っていたので、県が出荷規制解除(4月中旬)をアナウンスしたのち、お客様に電話などで、丁寧に状況を説明していきました」

 さらにブログでも、状況をありのまま発信していった。その結果、首都圏の顧客のほとんどが戻ってきてくれたのだった。

「勘」から「データ」重視の農業へ

データをもとに、数字を見ながら畑作りをする必要性を強く感じたという布施さん

 こうして2011年夏には、通常営業に戻った形となったが、農作業の取り組み方に大きな変化が起こった。勘に頼らずに、データを重視しながら、土作りなどを行うようになったのだ。

 「ミネラルバランスを整えたり、土壌中の腐植分を増やすことが、セシウムの移行や軽減につながることが証明されているのですが、それは特に真新しいことをする必要はなく、これまでの有機農業を続ければいいということなんです。でも、確実性を高めるには『大体このぐらいかな』といった長年の経験による勘ではなく、しっかりデータを取り、その数字を見ながら、畑作りをする必要があると強く感じたんです」

 こうした取り組みも大きな力となり、2012年の定期宅配の契約数は大きな伸びを示している。

 「私たち自身、震災を経て、人とのつながりをとても大切にするようになりました。いろいろな場所に顔を出すようにもなりました。配達でも、これまで以上に時間をかけているんです。それがいい方向につながっているんだと思います」

たい肥作りも慎重に

 目下のところ、大きな気がかりは「山」である。農地については、前述の土作りや深く耕していくことなどで「今後も大丈夫だ」(布施さん)と確信が持てる状態になった。しかし、山については、あまりに広大で、農地のようにはいかない。


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