自らの居場所作りに終始してきた日本の農政。
農業教育においても、農業関係者の育成ばかりで、農業経営者を育成する視点を欠いた。
もはや、官や農業関係者任せにせず、民間企業や個人で農業・農村改革に取り組むべきだ。
東京帝国大学農学部教授を経て東京農業大学の初代学長を務め、実学主義による同大学の発展に力を注いだ横井時敬の有名な言葉に、「農学栄えて農業滅ぶ」というものがある。横井の警句はまさに現代の日本農業の姿である。筆者は、さらに“農業問題は農業関係者問題”であり、“農業関係者の居場所作りのために農業問題が創作される”と思っている。
数ばかり多い農業教育機関
戦後の教育制度改革によって旧帝大だけでなく各地に農学部を持つ新制大学、私立大学が創設された。現実の農業を担う者、経営する者ではなく、国や県の行政、研究、教育職員を育成する学校が日本中にできていったのであった。“需要”の低下により一時期よりは減ったものの、現在でも農学あるいはそれに類する学部、学科名を持つ大学は国公私立を含めて約60校ある。恐らくその数は世界一ではないだろうか。
世界で第2位の農産物輸出額を誇るオランダの農業大学は、ワーゲニンゲン大学1つである。世界一の農業大国アメリカの中でも最大の農業生産額(2010年:375億ドル/全米の12%)を誇るカリフォルニア州で農学部を持つ大学はカリフォルニア州立大学ただ1つ。同大の3分校(バークレー、デービス、ロサンゼルス)と亜熱帯植物園芸研究所があるだけだ。しかも、オランダと同様に、研究教育機関としての州立大学が州の農業普及事業主体として農業経営者に対する極めて専門性の高い普及活動あるいはコンサルティングを行っている。
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我が国の主な農業関係者の数を表に示したが、その総数は31万5千人に及ぶ。農協職員の数が約25万人と一番多く、農業土木に関わる土地改良団体の職員が1万人以上もいる。この2つの組織が最も政治力を持つ農業団体であり、多くの利権にもかかわる組織だ。
農業関係者の数に対して農家の数はどうか。「農家所得の50%以上が農業所得で、年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家」である主業農家の数は約36万戸。職業的に農業を選択する農家とほとんど変わらない数の農業関係者がいる。さらに、販売金額が100万円を超す農家も約67万2千戸ある。この場合でも2戸に1人の農業関係者が張り付いていることになる。ただし販売金額100万円といっても、それで事業的に成立しているという意味ではない。