2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年7月23日

 労働教養所で方は毎日11時間働いた。クリスマスの時期には毎日6500個のクリスマスツリーの飾りを作らなければ、眠らせてもらえなかった。休みは月に4日だけ、月給は8元だった。

 薄熙来も王立軍も重大な規律違反の疑いで取り調べを受けている今、方の立場は逆転した。方は労働教養所から出るやいなや浦を訪ねた。5月14日に労働教養処分の取り消しを求める訴えが受理され、その2週間後の29日には開廷、即日勝訴の判決が言い渡されるという異例のスピード裁判だった。

「鳥の巣」設計でおなじみ
芸術家・艾未未の行政訴訟

 浦は6月20日には、芸術家の艾未未に対する巨額追徴課税の決定を不服とする行政訴訟で訴訟代理人として法廷に立っていた。

 艾は著名な詩人・艾青の息子で、オリンピックメインスタジアムの鳥の巣を設計したことでも有名だ。社会問題に関心を持ち、ドキュメンタリーの制作にも力を入れている艾は、四川大地震の学校の校舎倒壊について実態調査を行い、ブログを閉鎖させられ、警官に殴打されるなど、当局からさまざまな圧力をかけられた。浦が艾と知り合ったのは、2009年、同じく四川大地震時に学校で亡くなった子どもの調査をしていた譚作人の裁判を担当していた時だという。

 譚は国家政権転覆煽動罪で懲役5年の有罪となり、現在も監獄にいる。罪状には譚が天安門事件を記念する文書を海外で発表したことや海外の活動家との関係が含まれているが、その程度の活動なら他にもしている人が多数いる。そのため、実際には、四川大地震や環境問題に関する調査活動が当局の怒りを買ったのだろうといわれている。裁判で浦は、四川大地震に関して類似の活動を行っている艾に譚の証人になるよう依頼し、艾は快諾したが、裁判所は艾の証人としての出廷を認めなかった。

 その2年後、艾は譚と同じように突然拘束されることになる。2011年4月3日、艾は台湾出張のため出国手続きをしている際に連れ去られ、家族に居場所も知らされない状態で81日間拘禁された。その後、艾の妻が代表を務める会社に1522万元(約1億9000万円)の脱税容疑がかかっていることが北京市税務局から伝えられた。

公安にさえ恐れられる浦の手腕

 中国の法律によると、決定に不服を申し立てるとしても、まず脱税分の金額を払うか、その担保となるようなものを出さなければならない。2億円近い金額を急に準備するのは、芸術家として成功し裕福な艾であっても難しかった。しかし、3万人以上のネットユーザーが立ち上がり、あっという間に合計約900万元が艾に寄せられた。浦は違法集金詐欺罪(詳しくは私の過去記事『日本企業が直面する「黒社会・中国」での新たなリスク』を参照)に問われないようにと、この金を「利息のつかない借款」とするよう艾にアドバイスした。艾に2万元貸したという浦は、「艾は自らデザインした借用書を送ってきたよ。20枚の『草泥馬』(中国のネットユーザーたちが風刺に用いる架空の動物)の切手が貼ってあり、芸術作品そのものだ。2万元の価値は十分ある」と笑った。


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