中国に浦弁護士がいるという「希望」
浦は中国政府の基本的な態度を、「対内耍流氓,対外耍無賴」(身内に対してごろつきのような行動をとり、外に対してもならず者だ)という厳しい言葉で表した。国内では国民の権利を無視してインターネットを封鎖したり、理由も明らかにせず拘束したりやりたい放題であるにもかかわらず、対外的には「中国では言論の自由が守られています」とぬけぬけと説明するような態度を意味するのだという。
「皆、何が真実であるかはわかっているが、中央テレビ局のニュースは変わらない。政府を人前でののしるなということさ。このような政権と政党なら、犬を選んだ方がましだ。選挙をしても結局は形式的になり、自分たちの仲間の中から選んでいる」
では、「中国に希望はないのか」と聞くと浦は、「賀衛方教授(北京大学法学部教授でリベラル知識人の代表的人物)や自分のような人間が存在でき、その上、まずまずの生活ができるということは、中国は進歩しているということだ」と述べる。
「賀教授は刺繍をして、自分は肉体労働をするようなもんだけどね。賀教授は中国はこうあるべきという構想を示す。自分は彼の構想を着実に実行するだけさ。でも、賀教授の描く未来を実現するのは難しい。前に賀教授に冗談半分でこう言ったことがある。“あなたの提唱する司法改革には錘子(ハンマーの意味。成都や重慶の言葉で人をののしるときに使うスラング。男性の生殖器をも表す言葉)と法服しか残っていない”と。つまり、これが中国の司法改革の現状だと」
常に付きまとう北京の公安にも…
こういった浦独特の言い回しを聞いていると、大丈夫なのだろうかとこちらまでひやひやするが、浦は「自分の言動には気をつけており、息子にも大丈夫だと言っている」のだという。また、管轄内の権限や利益を重視する中国の地方保護主義の特徴を利用し、自らの活動空間を見出してもいる。たとえば、浦は常に北京の公安に付きまとわれ監視されているが、他の地域の案件処理のために北京を離れると、北京の公安は浦を追いかけ、「他の誰にも浦を捕まえさせない」という態度で地元の公安を追い払おうとする。
浦はこういった状況に対して、「北京の公安が自分を守ってくれているようなものだ」と笑い飛ばす。浦を監視する公安職員に対しても、「彼らは一番下っ端さ。食べていくためにこの仕事をしているんだ。時には一緒に世間話をしたり、酒を飲んだりしてストレスを解消したりもするさ」と屈託ない。
どんな人間の悲哀も歓喜も一身に受け止め、矛盾に憤りを感じながらも、一歩一歩前に踏み出そうとする。浦志強のような人こそが、今の中国を支えているのだと感じた。
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