「科学対トランプ」
バイデン前副大統領の強みは、トランプ大統領の「コロナ対応失敗」です。米国における新型コロナウイルスによる死者数は21万4000人に達しました。米ワシントン・ポスト紙とABCニュースによる共同世論調査(20年9月21~24日実施)によれば、58%がトランプ大統領のコロナ対応を支持しないと回答しました。
バイデン氏はテレビ討論会でトランプ大統領の新型コロナウイルスに関する発言を繰り返して、有権者に思い出せさせる戦略をとってくるでしょう。例えば、「暖かくなればウイルスは消える」「消毒液をうてばウイルスは消える」など、トランプ氏の「反科学」のコメントを列挙します。
米西海岸で発生している山火事に関しても、トランプ大統領は現地を訪問した際、「もうじき涼しくなる」と述べて、気候変動との関連を全面否定しました。バイデン氏はこのコメントにも言及する可能性があります。気候変動を重視するサンダース支持者の票を獲得するためです。
いずれにしても、バイデン氏は「科学対トランプ」の対立構図を作り、「政治ではなく科学に基づいて意思決定を下す必要がある」と、有権者に強く訴えます。「科学対トランプ」のメッセージはかなり効果的です。
1つの議題に関して15分がマックスですが、バイデン氏はトランプ大統領の「コロナ対応失敗」に討論の時間を費やしたいところです。
バレット判事指名
トランプ大統領は9月27日(日本時間)、死去したリベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の後任として、ホワイトハウスでエイミー・コニー・バレット判事を指名しました。民主党は大統領選挙後に、新しい大統領が指名するべきだという立場をとっています。というのは、民主党は過去に苦い経験をしたからです。
バラク・オバマ前大統領は16年3月16日、死去したアントニン・スカリア判事の後任判事を指名しました。投票日の約8カ月前です。
にもかかわらず、共和党は「選挙の年」であると議論をして、審議を拒否しました。トランプ氏がバレット判事を指名したのは、投票日の僅か38日前です。共和党は「二枚舌」だと批判されたも当然でしょう。
トランプ大統領の保守派の白人女性バレット判事指名は完全に「選挙利用」です。その意図は明確です。
第1に、バイデン氏と取り合っている郊外の女性にアピールすることです。第2に、人工妊娠中絶反対の立場をとるバレット判事指名により、キリスト教福音派の票を固めることです。第3に、開票結果で紛糾した場合、「最高裁決着」を図ることです。
バイデン氏はテレビ討論会で、トランプ氏の強硬人事に反対する有権者にアピールするでしょう。ロイター通信とグローバル世論調査会社「イプソス」による共同世論調査(20年9月19~20日実施)によれば、62%が「後任人事は大統領選挙の勝者が決めるべきである」という声明に賛成しました。反対は24%で、トランプ大統領の各種世論調査の平均支持率よりも約20ポイントも低いという結果が出ました。
バイデン氏は特に、米連邦最高裁の保守化に猛反対するバーニー・サンダーズ支持者に訴えるでしょう。筆者が16年大統領選挙において、南部バージニア州フェアファックスでサンダース支持のある若者を戸別訪問したとき、彼はクリントン氏に投票する意思はありませんでした。ただ、彼は「最高裁が保守化すると困るんだ」と語っていました。
バイデン前副大統領はトランプ大統領の後任人事の強硬策によって、4年前にクリントン氏に投票しなかったサンダース支持の若者票を取り込む機会を得た訳です。おそらく、バイデン氏は討論会で連邦最高裁で保守派とリベラル派のバランスが大きく崩れる点を強調し、米国民に警告を発するでしょう。