修正憲法第1条に従って報道
同紙が選挙まで1カ月強となった段階で、トランプ氏に決定的に不利に働く脱税疑惑をあえて報じた意味は何か。そこには「大統領として信頼に堪えない人物の再選は許さない」(アナリスト)という同紙の政治的決意が込められているように思う。米国の公正な民主主義を守り、権力の不正を監視する「第4の権力」としての役割を担ってきた自負と言ってもいいだろう。こうした点を考えると、今回の報道はトランプ大統領に対する“宣戦布告”に等しい。
バケット編集局長は自らの特別記事の中で、報道した理由について「市民は指導者の資産や財務状況、経験などをできる限り知る必要がある」とし、トランプ大統領が公の場で主張している財務状況と、IRSなどに明らかにしている内容と著しく異なる、と厳しく指摘した。
また大統領が歴代大統領の慣例に反し、申告書の開示を拒んでいる点について、開示するという約束を果たさないばかりか、隠ぺいすることに躍起になっていると断じた。
その上で、大統領の個人的な納税情報を公表することに疑問を感じる向きがあるかもしれないことに言及しながら、最高裁は「修正憲法第1条が報道に値する情報を報じることを再三にわたって認めている」点を強調、憲法に定められたその力強い原則が今回も適用される、と記した。
編集局長は同紙の報道がほぼ4年間、大統領の納税問題に取り組んできた調査チームによって行われたと明らかにし、フィッシュレダー調査報道編集長、パーディ副編集局長の監督の下で調査、執筆されたことを明らかにした。編集活動の手の内をきちんと公表することで、報道の公正さをアピールしたものと見られる
同紙の報道にはワシントン・ポストが1面で後追いするなど全米のマスコミも追及する構えを見せており、大統領が「フェイクニュース」と批判してきた伝統的な有力メディアとの対決が一段と先鋭化すると状況となった。29日には、トランプ氏とバイデン前副大統領によるディベート(大統領討論会)が行われる予定で、トランプ氏にとっては追及される材料が増えることになった。
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