新型コロナが粉砕する
CLO特有の「分散効果」
現在の米国では大型の財政・金融政策が景気の底割れを防いでおり、企業の大型破綻も小売りやエネルギーなど一部にとどまっている。それでも今年上半期のChapter 11(米国における民事再生法)申請件数は前年同期比26%増の3404件と増加中であり、既にCLO市場にも少なからぬ影響を及ぼしている。
中でも最もリスクの高い「エクイティ」と呼ばれる商品や、BB
ジャンク級(投機的等級)の企業のデフォルト率が従来の景気後退と同様の10%前後で収まることになれば、前回の金融危機の時と同じように、日本の機関投資家が保有するAAAのアセット・クラスにはほとんど影響が及ばないと見られるが、3月以降の内外企業の格下げ急増は警戒シグナルと捉えておくべきである。
S&Pによれば、4~6月の米国レバレッジド・ローン市場でのデフォルト総額は231億ドルと09年第1四半期以来の高水準となった。同市場では破綻接近中の「Bマイナス以下」の格付けシェアが年初の25%から34%と過去最大水準にまで拡大しており、今後も上昇するのは必至である。ジャンク級の格下げ増加は間違いなく経営破綻増の前兆であり、デフォルト率が前回の金融危機を上回る可能性は否定できない。
またデフォルトの際の回収率が従来比大幅に低下することも予想される。借り手市場を背景に、レバレッジド・ローン市場では「財務制限条項」などコベナンツ(融資契約の際の特約事項)が大幅に緩和されてきたことから、破綻時に清算した後の残余価値水準が通常よりも低くなることは避けられないだろう。
さらに留意すべきは、今回は通常の景気サイクルに見られる景気後退ではない、ということだ。どんなに財政・金融政策を繰り出しても、感染拡大が阻止できなければ経済規模が元の水準に戻るシナリオは描けない。
海外機関投資家のアンケート調査では、世界経済が「コロナ以前」の成長軌道に戻るのは22年以降、という見方が主流になりつつある。株式市場が想定するV字回復は、大規模な金融緩和で緊張感が薄れた投資家の夢物語に過ぎない。
より悲観的なシナリオとして、感染のさらなる拡大、ワクチン開発の遅延、政策の迷走などによって、景気後退が予想以上に長期化し、企業破綻が広範囲に広がるリスクも念頭に置いておくべきである。それは、CLOの最大の利点である「分散効果」を粉砕しかねない。その意味で、CLOが「テール・リスク」を抱えていることは間違いない。前回の金融危機と似て非なる大きなリスクが蠢いていることに目を向けなければならない。
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