2024年7月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月8日

 民主党のバイデン次期大統領は、11月23日、安全保障関連等の閣僚人事を発表した。

emarto / iStock / Getty Images Plus / DVIDS

 これに関して、11月23日付のウォールストリート・ジャーナル紙が、「バイデンのリベラルな国際派」と題する社説を掲げ、次期バイデン政権の閣僚リストについて、ブリンケン国務長官は安心感を与えるが、ケリー気候変動特使は大きな失望だと述べている。

 ウォールストリート・ジャーナルの社説は、一方で、ブリンケン国務長官やサリバン安全保障補佐官の指名については一定の評価をする。他方で、ケリー気候変動特使の任命については、軟弱な交渉者であり、対中交渉など強い交渉はできないし、気候変動の推進はエネルギー産業の力を削ぎ、世界での米国の安全保障の強みを弱点にすると批判する。ケリーや気候変動への強い批判は、保守派のムードの表れであろう。

 次期国務長官に指名されたブリンケンは、洗練された、経験豊富な外交専門家という印象を与える。スーザン・ライスを排しブリンケンに決めた背景の一つには、上院の承認で躓くことは避けたいとの考慮もあったのであろう。次期安全保障担当補佐官に指名されたサリバンや今後決まる国防長官等と共にダイナミックに米国外交をやることを期待したい。バイデンは過早なトップ交渉を避け、閣僚を使った外交をやるだろう。トランプのトップ外交は、成果や創造よりも破壊が目立ってしまった。その立て直しも含め、バイデン次期大統領の信頼のおける閣僚たちによる国際協調、より同盟重視の外交が行われるのであろう。

 国防長官の発表が見送られたのは奇異だった。ミシェル・フロノイで決まりと見られていた。一部関係者は、フロノイは未だ流動的だと言い、また国防産業との関係が緊密すぎるとの見方等もあるという。背景調査が未了なのか、党内に問題があるのか、議会に反対があるのか、あるいは共和党系大物を含め再検討しているのか、内情は分からない。

 財務長官に最有力と見られたブレイナード(NY連銀総裁)は、結局イエレン(前FRB議長)に代わった。なお、重要閣僚に超党派人事を入れることをバイデン次期大統領は考えるべきだろう。例えば、クリントン政権は共和党のコーエンを国防長官にし、オバマ政権では、ゲーツとヘーゲルが国防長官を務めた。

 なお、今後、国防長官の他、USTR(通商代表)、環境保護局長官、内務長官、エネルギー長官等が注目される。

 ケリー元国務長官の気候変動特使(安全保障会議に議席を持つが、上院の承認は不要)への任命は良いことだし、この問題に賭けるバイデンの決意は真剣であるが、注意深く進める必要もある。第一に、国内政策が先ず大事ではないか。外交から米国内を動かそうとすれば、トランプ主義者達によるグローバリズム、忍び寄る国際主義への反撃に手を貸すことになるリスクがある。少なくとも国内と外交の連動が重要であろう。第二に、気候変動を最大の国家安全保障政策に据えてバイデン外交全体をそれで仕切るべきだといった「気候変動第一主義的外交」が民主党左派や活動家の間に出ているようだ。が、かかる考え方はバランスを欠く。

 米国のリーダーシップの回復など、バイデン外交の基本的考えは、既に世界に安心感を与えている。今後の具体的な優先事項は、対中政策、対中東政策、対北朝鮮政策、対ロシア政策などの検討であろう。軍備管理も重要である。11月22日、トランプが通報していたオープン・スカイ条約からの脱退が発効した。INF条約からの脱退は、既に8月に発効し、同条約は失効した。軍縮条約に中国の参加が必要だとの議論は正論であるが、それまでの間であっても米ロ間の戦略的安定は維持していかねばならない。

 バイデンは、11月24日のインタビューで、「我々はオバマ政権の3期目ではない。当時とは全く違った世界に直面している」と語ったが、ポイントを突いており安心感を与える。

  
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